【学会レポート 3 】PAP:患者・家族向けのプログラム

公開日:2016年08月31日

目次

Patient Advocate Program(PAP)の取り組み

 第14回日本臨床腫瘍学会学術集会では、開催期間中Patient Advocate Program(PAP:患者・家族向けのプログラム、注)が行われました。「医療者と患者の垣根を越えよう」との趣旨で、医療者だけでなく、社会保険労務士などの講演にも参加者は熱心に耳を傾けていました。プログラムから主な講演をご紹介します。

「自分のせいでがんになったと思わないで」

 名古屋市立大学大学院医学研究科の明智龍男氏は「がん患者の心のケア」について参加者に語りかけるように話しました。明智氏は不安や抑うつなどの定義やその対処法について説明したうえで、性格ががんに与える影響に関する研究を紹介。「性格が原因でがんになることはほとんどありません。自分のせいでがんになったとは決して思わないでください」と強調しました。

がんを経験した患者さんの約半数は、なんらかの心のケアが必要であることが知られています。明智氏は「がんになればだれでもショックを受け、落ち込みます。しかし、それが長く続いて、日常生活に影響を与えるようであれば、医療スタッフに相談を」とアドバイスしました。

公的・民間医療保険制度の検索サイト

 がん罹患者が多い40~50代は働き盛りで、仕事を続けたり、収入を維持したりすることについて悩みをもっている人が少なくありません。NPO法人「がんと暮らしを考える会」の賢見卓也氏と、近藤社会保険労務士事務所の近藤明美氏は、公的支援制度、民間サービスなどの利用法や、手続きなどについて解説しました。

賢見氏は看護師としてホスピスでの訪問看護に従事したことがあり、患者さんが経済的な問題などで困っている現状を目の当たりにしたといいます。賢見氏はそうした経験を踏まえ、患者さんが利用できる公的・民間医療保険制度を検索できるサイト「がん制度ドック(http://www.ganseido.com)」を立ち上げました。

患者さんの病状、体調や希望に合わせた制度が検索できます。「各制度について相談する窓口がわかれば、具体的な利用の足掛かりになります。あとは申請書の提出までこぎつければ各種制度の恩恵を受けることが可能になります」と賢見氏は述べました。

一方、近藤氏は社会保険労務士として、病院の相談会で経験した事例を挙げながら、仕事を継続していくポイントを解説しました。「事業主もがん患者さんに配慮したいという思いはあります。しかし、どのように対応していいかわからないのが実情です。患者さんがどういう状況にあって、治療期間はどれくらいなのか、どのような希望を持っているのか――こうしたことを整理して伝えることで働き方を模索することもできます」と近藤さんは助言しました。

エビデンスのある補完代替療法とは

 健康食品や民間療法など、補完代替療法に関する情報が氾濫しています。大阪大学大学院医学系研究科の大野智氏は補完代替療法のエビデンス(科学的根拠)について解説しました。 厚生労働省が一般人を対象にしたアンケート調査によると、補完代替療法に興味がある、もしくは使用した経験がある、使用の準備をしているという人は83%に上ります。

しかし、医師や薬剤師などの専門家に相談することもなく、宣伝・広告や、周囲から勧められるまま使用している患者さんは少なくありません。

大野氏によると、補完代替療法についてはエビデンスがほとんどないのが現状といいます。「エビデンスがないということは、効果がないということではありません。補完代替療法を利用する場合は、効果、有害事象、相互作用の有無などを確認したうえで、自分の価値観に従って選択することが重要です」と大野氏は指摘しました。

がんリハビリテーションの役割が重要

 がんと上手に付き合っていくためには、がんを治す治療、痛みを抑える治療、副作用による不快な症状を緩和する治療とともに、生活の質を向上するためのアプローチも重要です。がんリハビリテーションの専門家である慶應義塾大学病院リハビリテーション科の辻哲也氏はがんと運動のエビデンス、推奨する運動療法や運動の工夫について解説しました。

がんのリハビリテーションについては、日本でも認知度は上がってきていますが、十分に浸透しているとはいえません。たとえば、現在の診療報酬が認められているのは、がんで入院している患者さんのリハビリテーションのみです。

辻氏は「日本のがん医療は予防に重点を置いてきましたが、これからは心の医療や緩和医療、リハビリなども重視し、さらに栄養管理や口腔ケアも徹底するべきです。がん経験者の社会復帰支援やサポーティブケアを行うことで、生活の質を高めていくことが可能です」と強調しました。

注 Patient Advocate Program(PAP) 日本臨床腫瘍学会は、患者・家族・国民に開かれた学会を目指しており、患者・家族にも門戸を開いている。参加費も3,000円(通常の学術集会参加費は12,000円~35,000円)に抑えられている

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