【QOL(生活の質)】オストメイトの不安を解消するアプリ「オストメイトなび」

公開日:2016年07月29日

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 大腸がんや膀胱がんなどの病気や事故で腹部に人工肛門や人工膀胱などの排泄口(ストーマ)を造設した人をオストメイトと呼びます。オストメイトの方々は、内部障害(疾患などによって内臓の機能が障害され、日常生活の活動が制限されること)者であるため外見では健常な方とほとんど見分けはつきません。

しかしながら、外出時に不安を抱える人は多く、そんな不安を解消するために開発されたのが、オストメイト対応トイレなどを探すことができるアプリ「オストメイトなび」です。医療や介護、福祉の分野における課題を、ITを使って解決することを目指すNPO法人エムアクトの代表で、「オストメイトなび」の開発者である神戸翼氏に話を伺いました。

オストメイトは排泄に不安を感じている

 オストメイトの方々が外出時に感じる最大の不安は排泄に関することです。ストーマには肛門や尿道口のように出口を締める働きをする括約筋がないため、排泄をコントロールすることが困難です。そのため、特殊な医療用装具(ストーマ装具やパウチ袋とも呼ぶ)をストーマの部分に装着しています。

そして、一定量の排泄物がストーマ装具に溜まるとトイレで中身を捨てる必要があります。このとき、ストーマ装具から排泄物や臭いが漏れたり、ストーマ装具に穴が開くといったトラブルが起きた際には、ストーマ装具自体を取り替える必要があり、それなりのスペースが必要です。こうしたストーマ装具の内容物を排出したり、緊急事態にストーマ装具を取り替えるために必要な機能を備えたトイレが「オストメイト対応トイレ」です。オストメイト対応トイレには、装具を置く台や立ったままストーマ装具の内容物を流すことができる台、腹部などを洗い流すための温水シャワーなどが設置されています。

現在は、一定の要件を満たす建物を建てる際にはオストメイト対応トイレの設置が法律で義務づけられています。その対象施設が、デパートやショッピングセンターをはじめ旅客施設以外の多くの施設まで拡大しているため、対応トイレの数は増えています。しかし、緊急時にどこにオストメイト対応トイレがあるかを探すことは困難で、通常のトイレで処理をするなど不便を感じているのが現状です。

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写真:オストメイト対応トイレ

オストメイトが外出しやすくなる環境を目指して

 きっかけは、一緒にアプリを開発したチームの親族にオストメイトの方がいて、外出時に不安を感じていること、そして、それが原因で外出することを躊躇していることを知ったことです。オストメイトの方々のQOL向上につなげるために、「オストメイトなび」の開発を思いつきました。

「オストメイトなび」には、現在、大きく分けて「探す」と「伝える」の2つの機能があります。「探す」機能としては、地図アプリという特徴を活かして、&#9312 オストメイト対応トイレの検索、② ストーマ外来のある医療機関の検索、③ ストーマ装具を扱っている店舗の検索が可能です。

「オストメイトなび」を起動させると地図上にオストメイト対応トイレの場所が表示されます。また、GPSを利用することで、現在地から近くのオストメイト対応トイレを探すことが可能で、トイレに設置してある設備や内観の写真、最短距離などがわかるようになっています。また、利用者のコメントや評価が残せるようになっています。

医療機関の検索については、通常、オストメイトの方々はかかりつけの医療機関があるため、その都度、ストーマ外来を探す必要はありません。しかし、引っ越しをした時や、外出先で急に診てもらう必要がある場合などには、ストーマ外来のある医療機関を探す必要があります。これは、ストーマ装具を扱っている店舗も同じで、旅先や災害時など急に装具が必要になった時に便利な機能です。

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図:オストメイトなび

「伝える」機能としては、①新しいトイレの登録と、②自分のストーマ情報の登録・携帯が可能です。新しいトイレの登録は、「オストメイトなび」の使用者が未登録のオストメイト対応トイレを発見した際に、アプリ上でデータを入力し、新しくトイレを登録することができます。

このアプリの特徴でもあり「オストメイトのための地図をみんなで作ろう!」というテーマのもとになっています。ストーマ情報の登録・携帯に関しては、自分のストーマの情報を登録し常に情報を携帯しておくことで、急に情報が必要になった際、特に緊急で医療機関にかかった際は、その情報を医療従事者へ伝えることでスムーズな診療につながります。オストメイトの方々は外見は健常人とほとんど変わりがありません。

そのため、障害者用トイレやその他の障害者施設を利用した際に、他人から注意されることも少なくありません。このような場合でも自分がオストメイトであることを証明してくれるツールになってくれることを期待しています。

ITの力で医療や介護、福祉に貢献していく

 今後は「教えてくれる」機能を新設するつもりです。オストメイトの方々にヒアリングを重ねていくと、オストメイトの方々に特化したセミナーや勉強会の情報などの必要性を感じました。新たに、① オストメイトの方々に特化した勉強会やセミナー、健康相談会の情報発信、② ストーマの装具などの新製品の情報発信、③ 災害時の対応マニュアルや災害時の備蓄状況、掲示板を通した情報発信などができる機能を追加する予定です。

また、「オストメイトなび」を通して評価の高いトイレのデータを集積してデータベース化し、ビッグデータの分析も大学との連携で開始しました。このデータを使ってオストメイトの方々にとっての理想的なトイレの形も模索しています。

オストメイトの方々は日本に20万人いますが、一般の人にはあまり知られていません。排泄に関する障害ゆえに、受容できない、カミングアウトをしにくい、仕事を見つけづらいといった問題も抱えています。また、障害者用のトイレで誤解されることがあるように、外見からはオストメイトであることがわからないので、周りの人から理解されず、配慮してもらえないという側面もあります。

今後はオストメイトという言葉の認知度を上げ、オストメイトの方々が抱える課題と社会環境から生まれるマクロな課題解決に向けて活動を広げていきたいと思います。そのためにも、オストメイトの方々のためのWEBサイトの立ち上げや、新たなアプリの開発にも積極的に取り組んでいきます。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。