2018年10月27日(土)14:00~ フクラシア八重洲(東京)にて開催 あきらめないがんセミナー

【医療情勢】患者が求めるがん医療の実現に向けて

公開日:2015年6月30日

(厚生労働省「がんサミット」トークディスカッションから)

厚生労働省主催の「がんサミット」が6月1日に都内で開催され、患者さんや医療関係者ら約300人が参加しました。トークディスカッション「患者が求めるがん医療の実現に向けて」(司会:東京大学医学部附属病院放射線科准教授・中川恵一氏)では、患者会など各団体の代表がそれぞれの立場から課題や展望について発言しました。その要旨をご紹介します。

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「医療の進歩を実感できる」が80% 患者の参画でがん対策は進展

東京大学医学部附属病院放射線科准教授 中川恵一氏

 がん対策基本法(2006年)は、「がん予防及び早期発見の推進」「がん医療の均てん化の促進」「研究の推進」の3本柱となっています。第1期がん対策推進基本計画(2007~11年度)では、「放射線療法、化学療法の推進」「治療初期からの緩和ケアの実施」「がん登録の推進」が策定され、第2期基本計画(2012~16年度)では「働く世代や小児へのがん対策の充実」が加わりました。文部科学省にはがん教育に関する検討会が作られ、2017年から全国の小・中学校、高校でがん教育が始まります。

国立がん研究センターが行った調査によると、がん患者の満足度は高く、「医療の進歩を実感できる」と答えた人は80%に達します。一方、緩和ケアに対する認識は少しずつ進んでいますが、自宅で亡くなる人は10%にとどまっています。がん検診の受診率は、国の目標値の50%に達しておらず、課題は残ります。

今後、がん対策加速化プランの実施、がん対策基本法の改正、第3期基本計画の策定と、日本のがん政策は大きく動きます。

心のケアと制度の整備が必要 リサーチ・アドボケートの育成を

一般社団法人CSR プロジェクト代表理事 桜井なおみ氏

 シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)に参加してきました。今年のASCOで印象に残ったのは「何を価値とするのか」ということでした。日本では、「患者申出療養(仮称)」が2016年度に導入される予定です。これは患者が希望すれば国内未承認の薬剤を使った治療を混合診療として認めるという制度(保険外併用療養費制度)です。

医療制度が大きく変わっていく中で、患者としての価値、社会としての価値、医療としての価値などを皆でどのように共有するのかが重要になってきます。

ASCOでは、新しい動きとしてがんサバイバーシッププログラムのなかに遺伝子情報に関する話題も入っていました。この先、本当の意味での個別化医療が進んだ時、遺伝子変異を持つ場合どうなるのか。民間の保険に入れるのか、といった問題が出てきます。がん治療は、科学としての進歩と同時に、心のケアと制度の整備が必要となります。そのためリサーチ・アドボケート(がん研究支援者)を育てていくのが次の目標となります。

また、がんサミットのような場があっても、患者と家族と医療者しか集まらないことが多いのが現実です。しかし、医療費という視点を考えれば、今後は一般市民(納税者)も含めた、イギリスの市民協議会のようなものが必要になると思います。

すべてのがん患者と家族が緩和ケアを実感できる医療に

特定非営利活動法人周南いのちを考える会代表 前川育氏

 私が緩和ケアに関心を持ったのは、35年前、6歳だった長男が白血病で亡くなる時、最期に「もういや!」と叫んだことがきっかけでした。当時の医学では、息子の痛みは十分にコントロールできませんでした。私自身もこれまで3度がんに罹りました。患者仲間の心身の苦痛を見ていることがつらく、緩和ケアにますます関心を持つようになりました。

がん対策推進基本計画では、がんと診断された時から緩和ケアが始まり、病院にがん患者サロンや緩和ケアチームなどもでき、光が見えてきました。一方、「医療者に本音が言えない」という声を聞きます。たとえば、医療者が理解する患者の痛みは実際より何割か少ないのではないかと思います。

全体的に緩和ケアは進んでいますが、地域、病院間、院内での格差をなくしてほしいと思います。また、患者がつらい時に自分の気持ちを訴えることができるシステムを作り、すべてのがん患者と家族が「緩和ケアを受けている」という実感が持てる医療であってほしいと思います。また、子どもの頃からがん教育を受け、病気への感性を育てることが大事です。同時に、大学の医学部や看護学部での緩和ケア教育の推進が望まれます。

難治性がんの研究を進める体制作りが必要

特定非営利活動法人パンキャンジャパン理事長 眞島喜幸氏

 日本は人口の急速な高齢化の中、難治性がんの患者数が年々増えています。それとともに、膵臓がん患者の死亡者数は年々右肩上がりで増えているのが現状です。国立がん研究センターのデータでは、昨年35,000人が膵臓がんに罹患し、ほぼ同数が亡くなっています。日本の膵臓がん罹患率はアメリカの倍となっています。

難治性がんに対する新薬の開発が期待されます。しかし、ドラッグラグのため、国際的な標準治療薬であっても日本ではすぐ使えないことが少なくありません。しかし、近年は日本も関係者の尽力で新薬の製造承認までの時間が短縮されつつあります。肺がん、すい臓がんなどの難治性がんは欧米に多く、欧米で開発されたこれらの治療薬は日本でも使えるようになります。

これに対して、日本人に多い、たとえば胆道がんについては臨床試験すら行われていないのが現状です。そのため、日本国内で研究を進める体制作りが重要です。

また、海外にはがん研究から臨床試験までのすべての段階で、患者団体が患者の声を研究者に届けるシステムがあります。こうしたシステムが日本でも機能することが望まれます。

2人に1人ががんになる時代、子ども達は乗り越える力を身に付けて

特定非営利活動法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長 松本陽子氏

 文部科学省による「がんの教育総合支援事業」が始まり、昨年度全国21カ所でモデル事業が行われました。当会もモデル事業に協力しています。教職員向けの研修会で、小児がんの生存率が70~80%に達することを説明したところ、教師の一人は「もし自分が受け持つ生徒が小児がんと言ってきたら、以前なら、この子は死ぬと思ったでしょう。それは間違った知識だとわかりました」と感想を述べていました。

また、「がんになっても充実した生き方ができる」と思う生徒の割合は、がん経験者の話を聞いたことで30%から80%に上昇しました。こういう数字からも、がん教育の重要性が理解できます。国民の2人に1人ががんになる時代、子ども達には乗り越えていく力を身に付けてほしいと思います。

鹿児島県で早くからがん教育に取り組んでいた人が、「未来に生きる君たちに命をバトンタッチします。かけがえのないあなたらしい人生を楽しんでね」という言葉を残しています。この精神こそが、がん教育に一番大事なものだと思います。

また、愛媛県は在宅を支える医療資源が偏在しているため、在宅医療の均てん化が重要な課題となっています。

小児がん拠点病院の専門医療を医師にも周知してほしい

小児脳腫瘍の会代表・馬上祐子氏

 毎年約2,500人が小児がんを発症し、その80%が治る一方で、小児脳幹グリオーマのように治療法がないために亡くなる患者もいます。小児がんでは、成長期に強い治療を行うため、患者の半数以上に合併症が出て長期のフォローが必要になります。

現在、全国に設置された15の小児がん拠点病院では、専門的な治療のほか、相談支援など、長期的なフォローアップを行っています。国立がん研究センターと国立成育医療研究センターは小児がん中央機関に指定されており、15拠点病院からの情報をまとめて公開しています。また、患者・家族らが参画するアドバイザリー・ボードには患者の声が直接届けられます。

しかし、小児がん拠点病院の存在を知らない人も少なくありません。小児がん拠点病院の専門医療について、患者、医師、地域に周知してもらいたいと思います。

一方、稀少がんについては、「患者が専門医療にたどり着けない」「専門医も研究も少ない」「治療の選択肢も少ない」の“ないない尽くし”です。患者の意見がさまざまな研究や学会に反映されるとともに、国は効率よく研究開発を進め、国際共同治験を推進してほしいと思います。