【医療情勢】がん患者さんの治療と仕事の両立の支援

公開日:2014年08月29日

目次

働きながら治療を続けるがん患者さんの増加

 日本では、国民の2人に1人は一生のうち1度はがんにかかり、そのうち3人に1人は就労が可能な年齢と言われています(※1)。現在、仕事を持ちながら治療のため通院している人は、厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」によると32.5万人。がんの診断後、お勤めの人のうち30%が依願退職、4%が解雇、自営業者で13%が廃業というデータ(※2)や、診断後の平均収入が、診断前の約395万円から約167万円にダウンしているといった調査結果(※3)もあり、治療と仕事の両立の難しさが見受けられます。

職場でがんと報告したら解雇された方、職場に迷惑がかかるのではないか…と悩み自主的に退職される方など、がんになった方は少なからず、仕事とのつきあい方を考え直しています。がんの治療をしながら仕事も続けたいと希望するがん患者さんの増加に対して、今後ますます企業や行政の支援体制の整備が求められています。

(※1)
性別・年齢別がん罹患者数

(※2)
がん患者・経験者の就労問題

(※3)
がんと診断された後の職業と収入の変化

資料は、「平成26年2月17日開催 第1回がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」における「がん患者の就労や就労支援に関する現状」から抜粋

がん患者さんの就労に関する不安を解消する取り組み

 がん患者さんの増加を背景に、国は「がん対策基本法(平成18年法律第98号)」を制定し、この基本法にもとづいて5カ年ごとに「がん対策推進基本計画」を策定しています。平成19年からの5カ年計画では、がんの予防や早期発見のための健診の質の向上、医療機関の整備や専門知識を持つ医師の教育といった対策を進めてきました。

そして、見直しの行われた平成24年からの5カ年計画では、治療と仕事を両立している患者さんが増加している現状から「重点的に取り組む課題」に新しく「働く世代のがん対策の充実」が盛り込まれました。個別目標には、「就労に関するニーズや課題を明らかにした上で、職場における理解の促進、相談支援体制の充実を通じて、がんになっても安心して働き暮らせる社会の構築を目指す」と掲げられています。

働くことが可能で意欲のあるがん患者さんが、安心して働ける環境づくりの実現を目指し、就労支援のあり方に関する検討会も開かれています。この計画に基づき、全国の397箇所に指定されたがん診療連携拠点病院(相談支援センター )には、社労士、産業カウンセラー、キャリアコンサルトなどの就労の専門家を週1回配置、がん患者さんの仕事と治療の両立のしかたや仕事復帰に向けた準備、職場への伝え方など就労に関する相談業務を行っています。

また、厚生労働省委託事業として「がん患者における治療と職業生活の両立支援モデル事業」に取り組んでいる病院もあります。このモデル事業は、ソーシャルワーカーが中心となって、社会保険労務士や産業カウンセラーを交えて、がん患者さんの個別の状況にあわせた仕事と治療の「両立プラン」を作成し支援を実践しています。病院と会社が連携することで、患者さんの職場復帰とその後の治療と仕事の両立がスムーズに図れるように支援していこうという取り組みです。

ハローワークでも就職支援のモデル事業として、専任の就職支援ナビゲーターを置いて、がん患者さんの就労に関する相談を受け付けています。上記の相談支援センターとも連携し、相談員を交えて一人ひとりの希望や治療状況を充分に理解した上で、就労の相談や職業の紹介を実施しています。がん患者さんが希望する労働条件に応じた求人の開拓や、企業へ求人条件を緩和してもらうよう指導も行っています。今後は、全国5か所(東京、神奈川、静岡、兵庫、愛媛)から12か所に増やすことが予定されています。

自分自身の治療の状況を把握して、周囲に伝えましょう

 がん患者さんによって、雇用状況や就労力はそれぞれ違います。業務内容によっては、体力的な面で継続が難しい場合もあるかもしれません。まずは自分の状況を把握し、周囲の理解を得ることが重要です。治療によってどのような副作用が起きるのか、通院のため仕事を休まなければいけない時期はいつなのか。先に分かっていれば、上司や同僚としっかりコミュニケーションをとることで解決できる問題も多いでしょう。

診断されたらはじめに見る がんと仕事のQ&A〜がんサバイバーの就労体験に学ぶ〜」は、がんの伝え方、働き方、お金、子育ての問題をテーマに、がん患者さんとその家族向けに情報がまとめられています。(無料でダウンロードが可能)

厚生労働省の「がんと就労」研究班が実施した「治療と就労の両立に関するアンケート調査」(平成24年)をもとに、がん患者さんが実際に直面した出来事、実践した工夫、知りたかった情報がQ&A形式で掲載されています。就労に関する問題が起きたとき、どこへ相談するのがいいのか、法律はどうなっているのかなど情報を得るのに最適です。

あきらめないで自分らしい働き方を見つけるためにも、しっかりと情報収集をして、しかるべき窓口へ相談し、サポートやアドバイスを受けることが大切です。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。