【医療情勢】「混合診療」全面解禁で、がん患者への影響は?

公開日:2013年05月31日

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混合診療が認められる2つの例外

「混合診療」という言葉を、ご存じでしょうか? すでに保険適用されている診療と、保険外の診療を併用することです。現在、日本の医療制度は原則として混合診療を禁止しています。しかし、ここ最近、政府の規制改革会議や、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉参加によって、混合診療が全面解禁される可能性が現実味をおびてきました。
がんの治療費にも大きく関係する混合診療について、ここで改めて整理しておきましょう。

日本の医療制度の大前提として、保険診療の場合、患者さんの自己負担は国が定めた治療費の1~3割で済みます。一方、自由診療は、医療機関が独自に定めた金額を患者さんが全額負担することになります。保険診療と自由診療を同一の医療機関で受ける場合は、保険適用分も含めた全額が自己負担になります。
ただし例外的に、2種類の自由診療に関しては、保険診療を受けながら利用することが認められています。新しい治療法や医薬品などの「評価療養」と、いわゆる差額ベッド代や診療の予約料など治療に付帯する「選定療養」です。それぞれ、下記のような項目が定められています。

評価療養
・先進医療
・医薬品の治験に係る診療
・医療機器の治験に係る診療
・薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用
・薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用
・適応外の医薬品の使用
・適応外の医療機器の使用

定療養
・特別の療養環境
・歯科の金合金等
・金属床総義歯
・予約診療
・時間外診療
・大病院の初診
・小児う触の指導管理
・大病院の再診
・180日以上の入院
・制限回数を超える医療行為

参照:厚生労働省のHP
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index.html

がん治療の選択肢が広がる
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混合診療の解禁には、メリットもあればデメリットもあると言われています。主なメリットとしては、次のようなことが挙げられます。

・保険適用されていない治療法や医薬品が使いやすくなり、患者の選択肢が広がる。
・保険適用に制限がある検査・処置が受けやすくなる。
・診療に付帯するサービスが充実し、患者の希望する療養生活がかなう。
・新しい医療技術や医薬品の開発が促進される。

一方、デメリットは以下のように言われています。

・経済力のある人と、そうでない人。あるいは都市部と地方で、受けられる医療に格差が生じる。
・信頼性の低い診療が広がり、健康被害が生じる恐れがある。
・新たな治療法が保険適用されにくくなる。
・民間の保険市場が拡大し、公的医療保険が縮小に向かう。

メリットの方は、比較的短期間のスパンで、個々人の患者さんの求めていることがかなう内容になっています。それに対し、デメリットは長期的スパンで社会全体を見渡し、混合診療による弊害を予測した意見であると受け取れます。

経済力や地域による医療格差が生じる?

もしも混合診療が解禁されると、がんの治療にどんな影響があるのか、実際の医療に置き換えて考えてみましょう。
すでに海外で使われていて安全性の高いとされる抗がん剤や、免疫療法でも、国内未承認のものはいくつもあります。あるいは、保険適用されていても、対象疾患や実施回数などに制限のある治療・検査もたくさん存在しています。混合診療が解禁されると、それらのがん治療が保険適用済みの標準治療と併用できるようになるでしょう。
例えば、200万円の保険診療と、100万円の自由診療を同じ医療機関で受けた場合、これまでは300万円すべてが患者さんの自己負担でした。それが、混合診療では保険診療60万円(3割負担の場合)+自由診療100万円=自己負担160万円で済むようになります。
医療機関側は、今までの診療に付帯して医師・看護師を増員して手厚いサービス体制を整たり、外国人患者のために通訳を用意する医療機関が登場するかもしれません。保険診療とは別料金でサービス(自由診療)を行うことができるからです。

他方で、長期的にみると、自由診療をカバーする民間保険に加入することが一般化し、保険診療の認定を受ける治療法や医薬品が最低限にとどまってします可能性がでてきます。新しい診断や治療は最初のうちはコストがかかっているため、この医療費を国が負担することが大変だからです。この費用は高度医療を望む人たちによってまかなってもらおうという考え方です。国の保険財源の縮小を考えたときには、保険適用範囲の縮小という議論がでてきます。ドラッグ・ラグの問題も解決しないままに未承認薬を高額のままに使用しなければならない可能性もでてきます。

今現在がんと戦っている患者さんは、混合診療の解禁という議論ではなく、安全で効果のある治療薬を早期に保険適用してほしいと願っています。しかし、この承認されるまでの間だけでも、混合診療を認めて欲しいと思う方もいることでしょう。混合診療の解禁は、日本のがん治療を大きく左右する重要なテーマです。メリット、デメリットの両面から、制度のあり方を考えることが大切と言えそうです。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。