【QOL(生活の質)】がんになっても、ぐっすり眠りたい~がん患者の睡眠マネジメント~

公開日:2013年05月01日

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がん患者の2分の1~3分の1が睡眠障害を経験

本来、眠るべき時間なのになかなか眠れない。眠ったとしても途中で目が覚めたり、眠りが浅かったりする。そんな睡眠障害に悩まされる患者さんは少なくありません。
米国国立がん研究所 (NCI) が配信している情報データベース「PDQ」によると、がんの患者さんの2分の1~3分の1は、なんらかの睡眠障害を経験しているとされます。一般の人が睡眠障害になる割合は10~15%ですから、がんがいかに眠りを妨げるかがよくわかります。

睡眠障害が引き起こされる原因は、主に下記のようなものがあげられます。

・身体的原因……嘔吐や発熱、下痢、便秘、疲労など、がんそのものによる症状。あるいは、寝汗やほてり、失禁など病状が進むことにより表れる症状。
・薬理学的原因……治療に使うステロイド剤や中枢神経刺激薬などによる影響。
・精神的原因……病気に対する不安や恐怖などから発症したうつ病、適応障害など。
・生理的原因……入退院による生活環境の変化など。

十分な睡眠がとれないことは、体力の低下につながり、治療や療養の継続を難しくしかねません。どうやったら夜、ぐっすり眠れるか。さまざまな角度から対策を探り、自分に合った眠り方を見つけたいものです。

睡眠障害は5タイプに分類される

一口に睡眠障害といっても、いくつかの種類があります。アメリカ睡眠学会は、症状や原因によって下記5つに分類しています。まずは自分の睡眠障害がどのタイプにあたるか、普段の眠りを振り返ってみてはいかがでしょうか。自分でわからなければ主治医に相談してみるとよいでしょう。

(1)入眠および睡眠持続の困難(不眠症)。
(2)睡眠覚醒周期の障害(概日リズム障害)。
(3)睡眠関連呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群など)。
(4)日中の過剰な眠気(ナルコレプシーなど)。
(5)睡眠時の不完全覚醒に伴う機能障害(睡眠時随伴症)。

がんの患者さんの睡眠障害は、(1)または(2)であることが多いと言われています。

(1)は、「不眠症」と聞いて多くの人がイメージするような症状で、眠りを妨げる特別な病気ではないにもかかわらず、寝つきが悪かったり、途中で目が覚めたりしてしまいます。

前述した身体的原因や精神的要因など、さまざまな不具合が引き金となって発症します。
また、(2)の「概日リズム障害」は、もともと体に備わっている睡眠リズム(概日リズム)が乱れることによって、眠ろうと思った時間に眠くならない症状です。
例えば、ずっと夜中まで仕事をしていた人が、入院によって9時に消灯されるようになるなど生活環境が大きく変化すると、それまでの睡眠リズムが乱れ、眠れなくなってしまうことがあるのです。

そのほかの(3)~(5)は、睡眠そのものが障害される専門的な病気です。(3)の睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中、一時的に呼吸が止まってしまう呼吸器系の病気です。(4)は「ナルコレプシー」という脳神経系の病気などが原因で、昼間でも極端に眠い状態を指します。(5)の睡眠時随伴症は、いわゆる「ねぼけ」のことです。

脳が部分的に覚醒しているため、眠った状態で起き上がったり、言葉を発したりする症状ですが、重度になると専門的な治療が必要になります。

睡眠時間に対するこだわりを捨てる

対応法は、自身の睡眠障害がどのタイプかによって異なります。
(3)~(5)の場合は、それぞれ睡眠医学に基づく専門的な治療を受けることになります。精神科や心療内科の中には、睡眠外来を設けている医師がいますので、相談してみるとよいでしょう。

他方で、(1)不眠症もしくは(2)概日リズム障害の場合は、主治医の協力と、患者さん自身の工夫が必要になります。身体的要因や薬理学的要因によって睡眠障害に陥っている場合は、治療のスケジュールや薬の処方を検討してもらうなど、主治医に検討してもらうようにしましょう。きつい副作用によって睡眠障害になり、体力が消耗しているような場合には、いったん抗がん剤を休むことも選択肢の1つとなるはずです。

重い睡眠障害は、がん治療のスケジュールを検討する必要も

患者さん自身ができる療養生活の工夫は、リラックスした状態で眠りやすい環境を作ることが基本です。部屋の照明は暗めにし、清潔でしわのない寝具を使いましょう。就寝前の飲食、喫煙は控え、トイレに行っておくことも、途中で目が覚めないために大切なことです。

そうした基本的な対応に加えて、睡眠に対する意識の持ち方を変えることもまた、ぐっすり眠るために必要なステップです。最近の研究では、旧来言われてきた「睡眠の常識」を覆す結果が明らかになってきています。厚生労働省の研究班がまとめた「睡眠障害の対応と治療のガイドライン」には、よい睡眠を得るための指針があります。健康な人向けの指針ではありますが、中には、がんの患者さんがぐっすり眠るために役立つ要素も盛り込まれています。

例えば、睡眠時間について。指針には「睡眠時間は人それぞれ。日中の眠気で困らなければ十分」と記載されています。一般的に「適切な睡眠は8時間」と言われますが、実際には個人差が大きく、年齢季節によっても必要な睡眠時間は異なるからです。また、同指針では眠るタイミングについて「眠たくなってから床に就く。
就寝時間にこだわり過ぎない」とも書いています。眠ろうとする意気込みが逆に頭を冴えさせ、寝つきを悪くするというのです。睡眠障害に悩む人は「何時間しか寝られない」などと睡眠時間の長さにこだわりがちですが、その必要はないというのが最近の睡眠学の主流になっています。がんの患者さんの睡眠時間は病状によっても異なりますが、あまり意識し過ぎないようにする心がけも大切と言えそうです。よりよい療養生活のために、一度、眠りを振り返ってみてはいかがでしょうか。

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