【トピックス】乳がん、卵巣がんの抑制遺伝子の働きを助けるタンパク質発見

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公開日:2017年9月29日

大阪大学は、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の原因遺伝子のひとつ、BRCA1が適切に働くために重要な役割を果たすたんぱく質を発見しました。この結果は、2017年7月12日に国際雑誌「Cell Reports」のオンライン版で公開されました。

遺伝性乳がん卵巣がんの原因、BRCA1

生物の設計図であるDNAは、紫外線や放射線、化学物質、ウイルスなどで絶えず損傷を受けています。がんは、正常な遺伝子に複数個の傷がつくことで発生しますが、傷は一度に起こるわけではなく、長い間に徐々に誘発されるとわかっています。がんに向かってだんだんと進むことから、「多段階発がん」といわれています。

がんは、大きく分けて二つのパターンがあり、細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子(がん遺伝子)に傷がつき、必要ではないときに細胞増殖を続けて起こる場合と、細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子(がん抑制遺伝子)に傷がつき、細胞増殖が止められなくなって起こる場合があります。

BRCA1はがん抑制遺伝子の一つで、DNAの修復に関わる遺伝子です。もともとは乳がんを引き起こす遺伝子として発見され、Breast Cancer(乳がん)の頭文字2文字ずつをとってBRCAと呼ばれています。これが適切に働かないことが原因で乳がんや卵巣がんになることが知られています。

BRCA1の変異によって起こる有名ながんに、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)があります。名前の通り遺伝するがんで、若年性乳がんと両側乳がんの頻度が高く、40歳以降では卵巣がんを併発することが多いのが特徴です。また、乳がんの型は、ホルモン受容体もHER2タンパクも出現しない、予後不良のトリプルネガティブ乳がんが多いといわれています。

一般の人が生涯で卵巣がんになる可能性は1~2%といわれていますが、BRCA1遺伝子に変異があると、39~59%になることがわかっています。また、BRCA1遺伝子に変異がある卵巣がんは、進行した状態で診断されることが多いという特徴があります。

BRCA1をターゲットにした新規治療薬に期待

BRCA1ががん抑制遺伝子ということはわかっていましたが、その制御するメカニズムは解明されていない部分が多くありました。

今回、大阪大学の小布施教授らの研究グループは、BRCA1の制御に関わるタンパク質SCAIを新たに発見しました。同グループは、以前発見したタンパク質に質量分析器を用いたプロテオミクス解析と放射線や抗がん剤への感受性実験(放射線や抗がん剤にどれくらい反応するかを調べること)により、DNA修復に関わるタンパク質としてSCAIを見つけました。

質量分析器を用いたプロテオミクス解析とは、細胞内で働いているタンパク質の中から、目的のタンパク質を壊れないように取り出し、目的のタンパク質に結合してきたほかのタンパク質を質量分析器で解析することで、目的のタンパク質と結合しているタンパク質を網羅的に同定する手法のことです。

BRCA1の変異が原因で起こるがんに効く抗がん剤をSCAIタンパク質が機能しないようにした細胞に反応させると、修復に失敗した異常な染色体が観察されました。この結果は、BRCA1を働かなくさせた場合と同じだったので、SCAIはDNA修復を助けているタンパク質だとわかりました。

さらに、高解像度レーザー顕微鏡でもっと詳しく観察したところ、SCAIはDNAが二本鎖切断された場所に集まり、BRCA1を邪魔するRIF1というタンパク質の邪魔をすることで、間接的にBRCA1の働きを助けているとわかりました。これらの結果から、SCAIの有無でBRCA1の働きがコントロールされていると考えられます。

BRCA1遺伝子に変異があると、生涯に乳がんを発症するリスクが80%以上になることが報告されています。近年では、BRCA1遺伝子に変異があるかどうか調べることで、将来乳がんや卵巣がんが発症する確率を調べる検査が医療現場で実用化されています。

さらに、最新の研究では、BRCA1が関わるDNA修復の異常が原因で生じたがん細胞に劇的な効果をもたらす抗がん剤(PARP阻害剤)が作られ米国で承認されるなど、BRCA1が原因のがんの予防、治療法の研究開発が世界中で盛んに行われています。日本でもPARP阻害剤のオラパリブが「BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がん」を予定される効果・効能として、2017年3月に厚生労働大臣から希少疾患用医薬品※(オーファンドラッグ)に指定されています。

今後、SCAIが詳しく解析されることによって、BRCA1遺伝子の変異が引き起こすがん発生メカニズムの理解が進み、発症前診断や、より効果の高い予防薬、がん治療法の開発につながることが期待されています。

※希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)とは:
希少疾病用医薬品指定制度は、医療上の必要性が高いにもかかわらず、日本での患者数が少ないことで十分な研究開発が進みにくい医薬品の開発を支援・促進する目的で実施されています。希少疾病用医薬品とは、優先的に審査される医薬品です。指定には、代替する適切な医薬品または治療法がないこと、既存の医薬品と比較して著しく高い有効性または安全性が期待されるなどの要件を満たす必要があります。

図: DNA修復(大阪大学ホームページ http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170712_1 より)

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