【最新医療】脳腫瘍の新治療法の「ウイルス療法」の治験スタート

公開日:2015年02月02日

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 日本で初となる、脳腫瘍に対するウイルス療法の医師主導治験が東京大学医科学研究所附属病院で開始されました。

この治験は「膠芽腫患者を対象とした増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスⅠ型の第Ⅱ相臨床試験」です。膠芽腫で、手術、放射線治療、抗がん剤(テモゾロミド)による治療をすでに受け、腫瘍が再発もしくは大きくなってきている場合や、腫瘍が残っている患者さんが対象です。

膠芽腫は脳腫瘍の一種で、現在のところ手術や放射線治療、化学療法などを組み合わせた総合的な治療が行われていますが、進行を食い止めることが困難な疾患です。

がんのウイルス療法は、がん細胞だけで増殖するウイルスを用いて腫瘍細胞を破壊するという新しい治療法です。増殖したウイルスはさらに周囲のがん細胞に感染して、増殖、細胞死、感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊していきます。

周囲へのウイルス拡散

(イラスト:東京大学医科学研究所附属病院の2014年12月18日付PRESS RELEASEから引用)

今回の臨床試験では、G47Δ(デルタ)という遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスが使われています。定位脳手術で腫瘍内にG47Δを投与し、治療法としての有効性、安全性を確認することが目的です。G47Δのもととなった単純ヘルペスウイルスI型はごくありふれたウイルスで、口唇に水疱を生じる口唇ヘルペスの原因ウイルスとして知られています。

G47Δは、遺伝子組み換え技術によって、単純ヘルペスウイルスI型が腫瘍細胞だけで増殖し、正常組織を傷つけないような仕組みになっています。G47Δはまた、再発や転移の要因となってがんの根治を阻むと考えられるがん幹細胞を効率よく破壊することがわかっています。

さらに、G47Δががん細胞を破壊する過程で、がんワクチン効果が引き起こされるため、G47Δの投与部位だけでなく、離れたところにあるがんに対しても抗がん免疫を介する治療効果が期待できるといいます。

この治療法は、手術や放射線、化学療法など従来の治療法とも併用が可能で、近い将来、悪性神経膠腫治療で重要な役割を担うことが期待されます。なお、医師主導治験は公的な研究費を得て、医師が主体となって効果や毒性が明らかでない治療法を評価するために行われる臨床試験であり、製薬会社などが厚生労働省から医薬品としての承認を取得するために行う臨床試験、いわゆる治験とは異なります。

 

 

転移性乳がんに「HER2標的2剤併用療法+化学療法」が有効

 HER2タンパクを標的とするトラスツズマブとペルツズマブの2剤および化学療法の併用療法がHER2陽性の転移性乳がん患者の新たな治療の選択肢になることが海外で行われた大規模臨床試験によって明らかになりました。

トラスツズマブは抗HER2ヒト化マウスモノクローナル抗体であり、がん細胞の細胞膜に存在するHER2と結合し、がん細胞の増殖を抑制すると考えられています。一方、ペルツズマブはトラスツズマブと同じ抗 HER2モノクローナル抗体ですが、 HER2と結合する部位がトラスツズマブとは異なります。単剤による効果は限定的ですが、トラスツズマブと併用することでより高い効果を発揮することが知られています。

CLEOPATRA(クレオパトラ)(CLinical Evaluation Of Pertuzumab And TRAstuzumab)と呼ばれるこの試験は、未治療の転移性乳がんおよび局所再発乳がんの患者808人が登録して行われた、プラセボ対照の二重盲検ランダム化第Ⅲ相試験です。

トラスツズマブとペルツズマブおよびドセタキセルを併用した群と、トラスツズマブとドセタキセルおよびプラセボ(偽薬)を併用した群で治療の有効性と安全性について検討が行われました。

その結果、追跡期間50カ月(中央値)の時点で、3剤併用治療群は、トラスツマブ+ドセタキセル併用群より15.7カ月長く生存したことが示されました。全生存期間(中央値)は、3剤併用群が56.5カ月だったのに対し、2剤併用群は40.8カ月でした。

トラスツズマブは、一部で重篤な心臓の副作用に関連していることが報告されていますが、同試験では、2剤のHER2標的薬とも副作用はみられませんでした。初診時に遠隔転移を認め手術の適応がない転移乳がんの患者は約10%とされています。

また、初期治療終了後10年以内に約30%の患者が再発をきたすともいわれます。原発巣または転移巣でのHER2 検索は必須となっています。HER2の発現状況はがんの特徴を推定するだけでなく、トラスツズマブをはじめとする抗HER2 療法の適応を検討するなど臨床上重要な情報になります。

転移性乳がんの治療は乳がん診療のなかで大きな割合を占めます。これまでの転移性乳がんの治療は根治を目指したものではなく、症状の緩和と予後の延長を目的に行われてきました。しかし、近年の目覚ましい薬剤開発などによって、治癒は困難であっても、乳がんでは死亡しないという近未来が見えつつあります。海外の調査でも転移性乳がんの生存期間は経年的に着々と延長してきていることを示すデータが報告されています。

CLEOPATRA試験の結果からも、今後、トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン系抗がん剤の3剤併用療法はHER2陽性転移性乳がん治療の第一選択として重要な役割を果たすことが期待されます。

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