【最新医療】がん細胞の増殖に必要な遺伝子を発見

公開日:2016年02月29日

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 国立がん研究センターは、さまざまな種類のがんの増殖に関わるIER5遺伝子を世界に先駆けて発見。IER5が転写活性化因子であるHSF1と結合することで、ストレスからがん細胞を保護し、がん細胞の増殖に寄与するというメカニズムを解明しました。

転写活性化因子とは、DNA上の特定の塩基配列に結合し、他の遺伝子の発現を強めるタンパク質のことで、正常な細胞ではHSF1の活性は低く保たれています。しかし、熱ストレスなどでHSF1が活性化すると、ヒートショックプロテインというたんぱく質の産生を促すしくみがあります。ヒートショックプロテインは、壊れたたんぱく質を修復するたんぱく質です。がんの発生や悪性化にHSF1が関わっていることが報告されていましたが、そのしくみは明らかになっていませんでした。

そこで、同センターはIER5が作るたんぱく質に着目。がん細胞ではIER5遺伝子の発現が上昇し、HSF1と結合して活性化することでヒートショックプロテインを誘導し、ストレスからがん細胞を守ることを突き止めました。IER5遺伝子は胃がん、大腸がん、膵臓がんなど、さまざまながんで発現が増えることもわかりました。

がん細胞は常に低酸素や栄養不足などのストレスを受けていますが、ストレスからがん細胞を守るIER5遺伝子の機能は、がん細胞の増殖に重要であると考えられています。IER5遺伝子の発現を抑制すると、がん細胞の増殖が弱まることや、HSF1と結合できないIER5はHSF1を活性化しないことも明らかになりました。

また、膀胱がんや脳腫瘍などの患者ではIER5およびヒートショックプロテインの高発現例は予後が悪く、IER5とヒートショックプロテインの発現を調べると、正の相関がみられたことから、IER5-HSF1-ヒートショックプロテインという経路ががんの転移や悪性化に関わっている可能性があることが示唆されました。

現在、ヒートショックプロテインを阻害するがん治療薬の開発が進められています。今回の発見から、IER5とHSF1の結合を妨げるメカニズムの新しい抗がん剤が開発され、より高い効果の治療法ができることが期待されています。

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出典:国立がん研究センタープレスリリース

肺がんの治療抵抗性克服に向け一歩前進

 名古屋大学医学系研究科分子腫瘍学分野(高橋隆教授)の研究グループは、肺がん細胞が抗がん剤に耐性を持つメカニズムの一部を解明しました。

肺腺がんの治療薬として知られるイレッサやタルセバなどは、変異した上皮成長因子受容体(EGFR)に対して働く分子標的薬ですが、使っているうちに効果が弱まっていくことがあります。がん細胞が薬剤抵抗性を獲得するメカニズムは多岐にわたるため、新たな分子標的薬を開発したり、複数の薬を組み合わせたりしても薬剤の感受性と耐性はイタチごっこを繰り返すといわれています。

研究グループは、ROR1という細胞膜にある酵素が肺腺がんの生存に重要であり、イレッサやタルセバなどに対して治療抵抗性を獲得した肺腺がんでは、ROR1を抑制することが有効であると報告しています。さらに、肺腺がん細胞では「カベオラ」という50~100ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の小さな陥凹構造を作るためにROR1が必要であることが今回判明しました。

肺腺がん細胞のカベオラには、さまざまな酵素が集まっていて、肺腺がんが生存するためのシグナルを出しています。ROR1は正常な細胞ではほとんど見られず、がん細胞では高い発現を示します。ROR1の活動を抑えると陥凹構造はできず、耐性が起こった細胞でもその後の増殖が弱まることもわかりました。

肺がんは、日本人の死亡原因第一位のがんであり、1年間に7万人以上が亡くなっています。肺腺がんは先進諸国では増加傾向にあり、肺がんの半数以上を占めています。ROR1の機能を阻害する分子標的薬が開発されれば、イレッサやタルセバなどに治療抵抗性を獲得したがんに対して有用な治療薬となる可能性があり、予後の悪い肺腺がんの治療法に結びつくことが期待されます。

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