【トピックス】膵臓がんに対する免疫細胞療法 樹状細胞を用いた日本発の治験が進行

公開日:2017年06月30日

免疫療法には複数の種類がありますが、免疫細胞の一つ樹状細胞をがん治療に応用した治療に「樹状細胞ワクチン療法」があります。標準療法が適応しない難治性の膵臓がんに対して樹状細胞ワクチン療法は安全性と有効性があるのか、研究が進められています。

目次

自分の体にもともとある細胞で治療

標準療法不応の進行膵臓がん患者を対象に免疫細胞である樹状細胞を使った治療を行う治験が和歌山県立医科大学で2017年3月に開始され、現在進行中です。

樹状細胞は私たちの体の中に存在する免疫細胞の1つで、1973年にアメリカのR・スタインマン博士によって発見されました。博士はその功績が認められ、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

「樹状細胞の電子顕微鏡写真」

樹状細胞には、取り込んだ異物の断片を「排除すべき敵」の目印(=抗原)として細胞表面に出し、T細胞に提示する「抗原提示細胞」としての働きがあります。樹状細胞から提示を受けたT細胞は活性化して、細胞障害性T細胞とヘルパーT細胞に変わり、異物を攻撃します。このしくみを利用したのが樹状細胞ワクチン療法です。

樹状細胞ワクチン療法の治療の流れは、まず患者さんから採血して得た血液細胞を樹状細胞に育て、標的となるがんの抗原を取り込ませます。成熟化してがんの情報を記憶した樹状細胞を患者さんの体内に戻すと、樹状細胞はT細胞を活性化させ、ピンポイントでがん細胞を攻撃させます。

樹状細胞ががん細胞を認識するために用いるタンパク質の一つにWT1というたんぱく質があります。WT1は正常組織にはほとんど存在せず、膵臓がんを含むさまざまながんに特異的に発現していることが報告されています。

樹状細胞を使った免疫療法は、抗がん剤療法や放射線療法、あるいは手術のような速効性は期待できないものの、がん細胞の増殖を長期間にわたって抑えられることが大きな特徴です。それは、メモリーT細胞を介して体が樹状細胞ワクチン療法の抗腫瘍効果を記憶するからです。

また、樹状細胞ワクチン療法は既存の治療法と併用することが可能で、組合せによっては大きな効果が期待できます。さらに、免疫チェックポイント阻害剤など、他の免疫療法との併用で相乗効果を生み出す可能性も示唆されています。

樹状細胞ワクチン療法は治療効果もさることながら、患者さん自身の体にある免疫細胞を用いることから、体内に戻しても拒絶反応が生じるおそれがないという強みをもっています。

樹状細胞ワクチン療法ではこれまでに、発熱、全身倦怠感、注射局所の発赤・腫脹・疼痛などの副作用が報告されていますが、いずれも軽度で、数日で軽快することが多いといいます。樹状細胞でがんを叩く免疫療法は、抗がん剤による化学療法などに比べると、より体のしくみを活かした治療法といえるかもしれません。

また、入院する必要がなく外来で受けることができる点は心理面の負担が軽く、社会生活を続けながら前向きに治療に取り組むことが可能です。

難治性の膵臓がんへの治療効果に期待

膵臓がんは早期発見が難しい、難治性の悪性腫瘍で、日本では肺がん、胃がん、結腸がんに次いで4番目に死亡者数が多いがんです。診断時には切除不能な状態まで進行していることが多く、予後も不良です。標準治療が適応とならない進行膵臓がんに対する治療法はまだ確立していないため、有効な治療法の開発が待ち望まれています。

がんの免疫療法は、手術、抗がん剤療法、放射線療法に次ぐ第4の治療法として注目されています。がんの免疫療法は、1890年にアメリカで細菌を使って体の免疫力を高め、がんを縮小させたのが始まりといわれています。樹状細胞ワクチン療法は、アメリカで前立腺がんの治療に承認されたほか、切除不能な進行・転移非小細胞肺がんで良好な治療成績が得られたとの研究報告が出されています。

同治験は、標準療法が効かない膵臓がんに対する樹状細胞ワクチンの安全性と有効性を検討する二重盲検ランダム化比較第Ⅲ相医師主導治験です。治験を担当する和歌山県立医科大学外科学第2講座(山上裕機教授)は、1例目の治験登録患者に治験製品の投与を開始したことを5月12日に報告しました。

今後は、樹状細胞ワクチンの安全性を確認した上で、全国の複数の医療機関が共同で患者185人を対象に有効性を検証する計画です。和歌山県立医科大学では、再生医療製品としての樹状細胞ワクチンを標準療法不応膵がんに対する新規治療製品として開発し、2022年までにエビデンスの構築を目指すとしています。

同治験の正式名称は「標準療法不応進行膵癌に対するS-1併用WT1ペプチドパルス樹状細胞(TLP0-001)の安全性・有効性を検討する二重盲検ランダム化比較試験」で、現在治験参加者を一般募集中です(2017年6月16日現在)。

問い合わせ先は、和歌山県立医科大学外科学第2講座(担当:勝田将裕助教)(和歌山市紀三井寺811‐1 電話073-441-0613)。

ポイントまとめ

  • 樹状細胞ワクチン療法とは、樹状細胞が取り込んだ異物の断片をT細胞に目印(=抗原)として提示する働きを利用する免疫療法の一種。
  • 樹状細胞を使った免疫療法は、標準治療のような速効性は期待できないものの、がん細胞の増殖を長期間にわたって抑えられることが大きな特徴。
  • 樹状細胞ワクチン療法は既存の治療法と併用することが可能で、組合せによっては相乗効果を生み出す可能性もある。また、拒絶反応の恐れがないことも強み。
  • 難治性の腫瘍である膵臓がんに対する治療効果が期待されている。和歌山県立医科大学では、治験製品の投与を開始した。

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