【セミナーレポート】先端治療から、がんとの向き合い方まで 「再発・転移へのあきらめないがんセミナー」2月25日(土)開催

公開日:2017年02月28日

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再発・転移へのあきらめないがんセミナー「再発・転移へのあきらめないがんセミナー」が2月25日、東京都内で開催しました。

がんに精通した6人の医師がそれぞれの立場・視点で先端のがん治療、再発・転移・進行がんと闘うために知っておきたい治療選択肢や、がんとの向き合い方について解説しました。

会場にはがん患者さん、家族、医療関係者など100人を超える方々が集まり、講演に耳を傾けていました。講演後は積極的に質問する姿も見られました。

病気の現状を理解し、正しく対応するために

あきらめないがん治療ネットワーク理事森山紀之氏

グランドハイメディック倶楽部理事

森山紀之氏

 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター長を務め、40年以上にわたってがん診療に携わってきた、あきらめないがん治療ネットワーク理事の森山紀之氏によると、「がん」は「火災」に似ていると言います。

ボヤ程度であれば消火器で消し止められますが、火の勢いが強く天井に燃え移って手に負えなくなれば消防の要請が必要になります。さらに火の勢いが強まれば延焼を食い止める必要があります。大火となって消失面積が広がれば大きな被害が出ます。

火災による被害を最小限に留めるためには的確な初期消火が重要です。そのためには燃焼や、消火活動の基本について理解する必要があります。たとえば、フライパンの油に引火したところに水をかけると飛び火する危険性があります。森山氏は「がんの治療も同じで、がんについての正しい知識を身につけ、よりよい治療法を選択することが大切です」と強調しました。

がんと診断され、再発・転移の告知を受けると大きな不安に襲われ、何も考えられなくなります。患者本人だけでなく、家族にとっても大きなショックです。「がんは怖い病気です。患者さんはがんとどう闘うか、どのような治療法を選択するかというような重大な決断に迫られます」。森山氏は近著『幸せながん患者』(講談社)で「がんを受け入れ、正しく知って、正しく恐れる」ことの重要性を説いています。

森山氏は、がん教育についても触れ、特に学校教育でのがんの啓蒙・啓発が必要であると指摘。「自身の病状を知り、納得のうえで治療法を選択する。人生の優先順位を自覚し、自分らしくがんを生き抜くことができれば、幸せながん患者といえるのではないでしょうか」と述べました。

医者は割合しか知りません

東京ミッドタウンクリニック呼吸器科吉田純司氏

吉田純司氏

「命は複雑なシステムで成り立っていて、まだ解明されていないことが多く、治療において断言できることは少ない――それが医学・医療の本質です」と、長年、国立がん研究センター東病院で外科医として活躍してきた東京ミッドタウンクリニック呼吸器科の吉田純司氏は指摘。患者さんが自身の病気と向き合ううえで重要な「がん」や「医療」、「数字」に関する捉え方のヒントを示しました。

吉田氏によると、「生は死亡率100%の病気」であり、生き物はいつか必ず死ぬこと以外に確実なことは少ないのです。検査をすれば病状が必ずわかって、治療すれば必ずよくなるなどということは幻想です」。

ただし、割合(率)でならわかっていることもあり、「この治療法は何%の患者に効果がある、あるいは副作用が現れるということをお話することはできます。しかし、臨床(比較)試験で最良の治療法がわかっても個々の患者さんに常に当てはまるわけではありません」。

さらに、「医師はすべてを見通せるわけではなく、個々の患者さんに行われる医療について確実な結果を保証することはできません。医師は常に推定で話をしていて、どの治療法も実際にはやってみなければわからない」と本音を述べました。

また、「ベテランの医師だからわかるということでもありません。むしろ経験が豊かな医師ほど、例外があることを知っていて、言葉を濁すこともあります」と説明を加えました。

医師に命を預ける気持ちで治療を受けていた患者さんにとっては身も蓋もない話に思えますが、一方で医師の口から出る生存率や余命などの数字を過剰に気にしても仕方ないといいます。

「医療において分からないことが多い中、医師とよく話し合い、患者さんご自身が納得いく治療法を選んでいかなければなりません。決めるのは患者さん自身です。ご自身がこの治療法だと腹をくくったなら、それが患者さんにとってベストな治療法なのです」と言う吉田氏の言葉には、長年外科医として多くの患者さんと向き合ってきた、うそのない力強い想いが感じられました。

「もちろん医師は患者さんの役に立ちたいと考えているからこの仕事をしています。しかし、うそはつけません。じっくり話し合い、手を携えて一緒にがんに立ち向かっていきましょう」と言葉を締めました。

放射線治療にできること、今後に期待できること

あきらめないがん治療ネットワーク理事柏原賢一氏

東京放射線クリニック院長

柏原賢一氏

がんの3大治療法の1つである放射線治療は、化学療法や手術ほど情報が多くないため、かつて日本のがん患者で放射線治療を受けるのは約20%(欧米は約60%)でした。医療者の間でも治療選択肢として十分に浸透していないのが現状です。そうしたなか、東京放射線クリニック院長の柏原賢一氏はがんに対する放射線治療の有用性、可能性について講演しました。

柏原氏によると、コンピューター技術などの進歩で放射線治療は大きく変わってきたといいます。

強度変調放射線治療(IMRT)、体幹部定位放射線治療(SBRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)が登場して、腫瘍周辺の正常細胞に出来る限りダメージを与えずにがんを攻撃できるようになった。ダメージを与えずにがんだけを攻撃できるようになったことなどが少しずつ知られるようになり、現在は日本で患者さんの約35%が放射線治療を受けているといいます。

同クリニックで2008年4月から2016年8月までに行われた放射線治療は1876件(IMRT 770件、SBRT317件を含む)でした。最近注目されているSBRTに関しては、保険が適用される肺がんと一部の肝がんが多くなっていますが、ほかにリンパ節、副腎などさまざまながんで治療効果が得られています。

高精度放射線治療は、ピンポイントで放射線を照射できるようになったことで多様な治療ができるようになっています。柏原氏は、多発病変に対してできる限り局所療法を行って、その後抗がん剤治療や免疫療法を上乗せする治療法の有効性を確認しています。効果が現れにくい大きながんに対しては、増感剤という薬を使って放射線の働きを強くすることもできるといいます。

また、「放射線治療による効果に免疫が関与していることがわかってきました。放射線治療を行うことで、放射線が照射されていない場所のがんが小さくなるアブスコパル効果も期待できます」と柏原氏は説明しました。

このアブスコパル効果は、放射線治療により破壊されたがん細胞から免疫細胞ががんの目印を獲得することで、免疫細胞ががんを攻撃しやすくなるからとされています。その他、放射線治療は痛みなど、がんの症状を緩和する目的でも行われます。部分的な治療はもちろん、緩和など、高精度放射線治療の可能性を最大限に追求し、出来る限り患者様のご要望応えるのが柏原氏の治療方針といいます。

近年、放射線治療の開発が進み、薬物治療における分子標的薬のように、がん細胞に対して選択的に働きかける中性子補足療法の臨床試験も進んでいます。柏原氏は「治療技術が進歩する中、患者さんは自分のがんについてよく理解し、納得のいく治療法を選択できる目を養ってください」と述べました。

プレシジョンメディスンとがん治療の進歩

あきらめないがん治療ネットワーク代表理事田口淳一氏

東京ミッドタウンクリニック院長

田口淳一氏

あきらめないがん治療ネットワーク代表理事で日本でも数少ない臨床遺伝専門医である田口淳一氏は、プレシジョンメディスンについて「がん組織の遺伝子変異を調べ、それに合った薬を見つけることでテーラーメイド医療を実現する道筋が見えてきました。

その薬とは、化学療法の抗がん剤ではなく、分子標的薬が対象になります」と説明し、「オバマ前アメリカ大統領はプレシジョンメディスンを《正しい治療を正しいタイミングでいつも適切な人に投与できること》と表現しました」と補足しました。

プレシジョンメディスンは具体的には、手術で採取したがん組織を使って遺伝子を検査し、その遺伝子に特別な変化がないかを調べることで、有効な薬や治療法を探します。同クリニックで行われた例では、2回目の再発が見られた肺がん患者さんの胸水の細胞をとって、米国で遺伝子検査をしたところ、日本で認可されている薬の1つが有効と思われることがわかりました。

そこで患者さんにその薬を投与したところ、胸水の消失が確認されました。「プレシジョンメディスンでは、たとえば肺がんの患者さんに合う薬がなくても、がんの遺伝子を調べることで、同じ遺伝子に変化がある他のがんに使われる薬が効くかもしれない、ということが分かります。」と田口氏は説明しました。

田口氏は、現在国内で進められているSCRUM-Japanについても言及しました。SCRUM-Japanは、大規模な遺伝子異常のスクリーニングにより、希少頻度の遺伝子異常を持つがん患者さんを見つけ出し、遺伝子解析の結果に基づいた有効な治療薬を届けることを目的にした世界最先端のプロジェクトです。全国約200医療機関と10数社の製薬会社が参画し、アカデミアと臨床現場、産業界が一体となって、日本のがん患者さんの遺伝子異常に合った治療薬や診断薬の開発を目指しています。

田口氏は「がん組織がない場合は採血によって、腫瘍細胞由来のDNAを分離することができるようになっています。将来は、採血によるリキットバイオプシーでがん細胞をモニターし、解析することで効果の期待できる治療法がリアルタイムで分かるようになるでしょう」と最先端医療への期待を述べました。

免疫療法の役割

東京ミッドタウン先端医療研究所 がん診療部長島袋誠守氏

島袋誠守氏

「がんとは1つの治療法で太刀打ちできるほど甘い相手ではありません。がん治療はあらゆる方法を使って闘う総力戦です」――標準治療と免疫細胞療法の併用療法を日常的な治療法として位置づけている、東京ミッドタウン先端医療研究所がん診療部長の島袋誠守氏は、免疫療法の特徴と可能性について紹介しました。

「局所治療では手術や放射線治療は強力な武器となりますが、目の届かないところに潜む敵には歯が立ちません。これががんという病気の手強いところです」。手術も放射線治療も効果が期待できないがんに対して、現状では抗がん剤による化学療法が行われます。

「抗がん剤は『相打ち』の治療法であり、がん細胞を叩くのと同時に正常細胞にも影響が及びます。化学療法を繰り返すうちにがんに対する効果がなくなり、正常細胞だけがダメージを受けるようになって、やがて治療が続けられなくなる時が来ます。それを補完するのが免疫療法です」と島袋氏は指摘しました。

島袋氏によると、免疫療法はあらゆる固形がんの早期から、治療の手が尽きたと言われた例まで、多くの患者さんが対象になり、同研究所では7歳から92歳まで幅広い年齢層の患者さんが免疫療法を受けているといいます。

また、島袋氏は免疫に働く治療法として免疫チェックポイント阻害剤についても言及しました。がん細胞は自分が敵ではないふりをして免疫細胞の攻撃をかわしますが、それを阻止するのが免疫チェックポイント阻害剤です。

一部のがんで効果が認められ保険適用となっており、今後期待できる治療法のひとつではありますが、一方で免疫細胞が正常細胞を攻撃しないシステムを利用するがん細胞の機能をブロックすることで生じる副作用についてはまだ解明されていません。

これに対して同研究所の免疫療法はワクチン療法の1つでもあり、副作用の心配は少ないとされています。

また、当研究所は多くの医療機関と連携し、さまざまな知識や技術、経験を持った医師との協力関係で免疫療法だけに限らないあらゆる治療可能性を追求しています」と述べ、「重要なことは、その時点でできることを医師と患者が一緒に探しながら、『今』をしのぐこと。今をしのぐことができれば、また新たな治療選択肢が出てくることもあります。」とまとめました。

あきらめない腹水治療! KM-CARTによる積極的症状緩和とオーダーメイド癌治療への活用

要町病院 腹水治療センター センター長松﨑圭祐氏

松﨑圭祐氏

がんの進行や転移に伴って腹水の産生能が上昇し、吸収能が低下します。その結果、腹水は体内に溜まっていきます。腹水がたまる原因はがん性腹膜炎、肝硬変などです。一般的に、腹水がたまると、治療の継続が困難で、疼痛緩和も効果が期待できない末期の状態と考えられています。

腹水中にはがん細胞をはじめ、栄養分のアルブミンや免疫機能を担うグロブリンなどが多量に含まれています。腹水を排出すると、生命維持に重要なこれらのタンパク質が失われ体が急速に弱っていきます。一度に大量の腹水を排出すると、急性腎不全や血圧低下、ショックなどを起こすなど、命に関わる状態を招く可能性があります。したがって、今の医療界では「腹水を抜くともう終わり」というのが医師間でも共通認識となっているのが現状です。

がん性腹水の治療法として「腹水濾過濃縮再静注法(CART)」が1977年に開発されましたが、膜がすぐに詰まり操作も複雑で、実用的でないことから現在はがん性腹水の治療では使われていません。

そこで、要町病院腹水治療センターの松﨑圭祐氏は従来型のCARTに改良を加えたKM-CARTシステムを考案しました。腹水を濾過し、栄養分(アルブミン、グロブリン)を回収して静脈注射で戻すという逆転の発想から生まれた治療法です。

松﨑氏は、「KM-CARTは、平均すると1時間ほどで約6リットル腹水を採取し、約0.6リットルの濃縮液を体に戻すことができます。従来のCARTに比べて操作が簡便で、処理スピードが速く、副作用が少ない」と説明しました。

同院では2009年2月から2016年12月までに、膵がん、卵巣がん、胃がんなど3114例にKM-CARTを行っています。KM-CARTで多量のアルブミンとグロブリンを回収し、濃縮して体内に戻すことでがんと闘う力を取り戻した患者さんは多く、食事も摂れず終末段階の状態だった方がKM-CART治療の4日後にゴルフで18ホール回れるようになったケースなどもあります。

「腹水からがん細胞、リンパ球を回収して抗がん剤感受性試験や免疫療法への応用も可能です。これからは腹水が多いほどより良い治療ができるようになり、腹水を巡るがん治療の常識が変わるでしょう。だから、腹水のためにがん治療をあきらめることはありません」と、松﨑氏は患者さんにエールを送って講演を締めくくりました。

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