血管新生阻害薬 ~血管新生の阻害とがんの増殖抑制~

公開日:2011年12月01日

目次

血管新生とは

人間の細胞は、その細胞の周囲にある血管から栄養や酸素を取り入れてその活動や機能を維持しています。必要な細胞の数も人間の元々持っている機能で厳密に制御されています。しかし、がん細胞は制御をすることができず、非常に増殖が活発です。このような活動をするがん細胞は、正常細胞と比べると大量の栄養や酸素が必要なので、新たに血管を作り始めます。血管が新しく作られることを血管新生と呼んでいます。がん細胞の作り出した新生血管はその活動を支える源になっています。

血管新生のしくみ

血管新生には血管新生因子であるVEGF(血管内皮増殖因子)やFGF(線維芽細胞増殖因子)が必要ですが、がん細胞はこれらを生み出して血管内皮細胞の増殖を刺激します。マトリックスメタロプテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素によって血管内皮細胞の基底膜を破壊します。先ほど説明した血管新生因子によって刺激をうけ、かつ基底膜が壊された血管内皮細胞は新しい血管をがん細胞まで伸ばしていきますこのように作り出された新生血管はがん細胞に到達し、その栄養や酸素を供給するパイプになってしまいます。また、この血管はがん細胞の浸潤や転移の経路としての役割も果たすと考えられています。

従来からの化学療法で使われている抗がん剤やVEGF(血管内皮増殖因子)の経路を標的としない分子標的治療薬は、がん細胞に作用してそのシグナルを抑制することにより殺細胞効果や抗腫瘍効果を発揮しますが、VEGF(血管内皮増殖因子)を標的とした分子標的治療薬は、がん細胞で特有と考えられている微小環境を利用して、がん細胞への栄養供給を絶つという考えから新しい薬として開発されています。これらを血管新生阻害剤と呼んだりします。もういちど説明しますと、血管新生阻害剤とはがん細胞直接ではなく、その周囲の環境である栄養や酸素をがん細胞に届ける役目をする血管内皮細胞に作用して、増殖を抑制する働きをします。これによりがん細胞の活性化も抑制して抗腫瘍効果を示すと考えられています。

大腸癌と肺がんに適応 ~ベバシズマズ(アバスチン)~

現在日本で承認されている血管新生阻害剤にはベバシズマブ(アバスチン)があります。アバスチンはまずアメリカ(2004年2月米国食品医薬品局 FDA)で大腸癌の治療薬として承認されました。次の年には欧州(2005年1月欧州医薬品局 EMEA)でも大腸癌の薬として承認を受けています。2006年10月にはFDAは扁平上皮癌を除く切除不能再発・転移性非小細胞肺癌に対する治療薬として、カルボプラチン・パクリタキセルとの併用療法において追加承認をしています。2008年2月に、FDAはさらに転移性乳がんに対する治療薬として、パクリタキセルとの併用療法で追加承認をしましたが、臨床試験の結果などから乳がんに対する適応を取り消しています。これは2011年11月の発表です。FDAやEMEAの承認の動きをみても分かるように、アバスチンでは大腸がんの領域で最も早くに治験が進みました。日本では大腸がんと肺癌で適応が認められています。

ベバシズマブは血管内皮増殖因子(VEGF)に対するヒト化抗体です。抗体は鍵と鍵穴のような関係にある特定の抗原にのみ結合することができ、それらを応用して治療をしています。ベバシズマブは、がん細胞の外の環境であるVEGFと特異的に結合することによってVGEFと血管内皮細胞上の膜受容体であるVEGF受容体(VEGFR)との結合を阻害する働きをします。この働きによって血管が新生していくのを抑制して、がん細胞に必要な栄養や酸素の供給を絶つことができると考えられています。また、がん細胞が作り出した新生血管は正常な血管と比較すると異常な機能をすることも分かっています。このような血管は抗がん剤の到達性が低下する恐れもあります。しかしながらベバシズマブにはこのような異常血管を正常化する作用も持っています。そのような作用により血管を正常化させ、抗がん剤の到達性を改善した上で、その他の抗がん剤との併用により、高い抗腫瘍効果が期待できると考えられています。

腎細胞癌に対して血管新生阻害薬 ~テムシロリムス(トーリセル)~

腎細胞癌に対して使用されている分子標的薬といえば、スニチニブ(スーテント)やソラフェニブ(ネクサバール)が使われていますが、昨年2010年9月に、テムシロリムス(トーリセル)が発売されました。テムシロリムスは、がん細胞の増殖を調節するmTOR(エムトール 細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼの一種)と呼ばれるものの活性化を阻害します。これにより血管新生を抑制することもでき、抗腫瘍効果があると考えられています。血管新生阻害薬は併用療法としての使用によって効果を発揮することが多く報告されていますので、今後の臨床試験の結果が期待されます。

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