【学会レポート 2 】免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理

公開日:2016年08月31日

目次

免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理

 がん細胞は免疫の働きにブレーキをかけ、免疫細胞ががん細胞に攻撃するのを阻止しています。免疫チェックポイント阻害薬は、このがん細胞のブレーキ機能を阻害し、免疫細胞ががん細胞を攻撃するのを手助けする新しい作用の医薬品です。第14回日本臨床腫瘍学会では免疫チェックポイント阻害薬に関する研究報告が多く、特に副作用の管理が関心を集めました。

医師同士が顔の見える環境で副作用管理を

 免疫チェックポイント阻害薬による副作用には胃腸障害、肝障害、肺臓炎、皮膚障害、神経障害、内分泌障害などがあることが知られています。免疫チェックポイント阻害薬によって活性化されたT細胞や新たに産生された自己抗体によって臓器が障害を受けるというメカニズムが考えられますが、不明な点が多いのが現状です。

九州大学病院呼吸器科では従来、薬物療法の副作用を血液毒性と非血液毒性に分けて考えていましたが、免疫チェックポイント阻害薬については免疫関連有害事象とそれ以外の有害事象として対応を検討しています。

「最もナーバスになっているのは間質性肺炎。ニボルマブによる間質性肺炎の発症は投与開始して4週間以内の発症が7割以上とされており、治療開始当初から厳重な経過観察が必要になります」と同科の岡本勇氏は指摘しています。

ニボルマブの添付文書は自己免疫性の疾患、間質性肺炎のある患者さんに対しては慎重投与を求めています。日本肺癌学会の公式サイトにはニボルマブの情報が一般にも公開されており、「ニボルマブは夢の薬ではない」「副作用があり重篤になる場合がある」などと呼びかけています。

岡本氏は「免疫チェックポイント阻害薬は副作用が多彩で呼吸器科だけで管理することは困難。大学病院など大型の施設では診療科横断的な体制を整え、医師同士が顔の見える環境で副作用の管理を行うことが重要です」としています。

多職種・他科連携で副作用管理

 聖マリアンナ医科大学病院では2015年6月に免疫チェックポイント阻害薬副作用対策チームが設置されました。当初、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療は皮膚科で行われていましたが、免疫チェックポイント阻害薬の副作用について随時相談できる体制づくりが求められるようになりました。

免疫チェックポイント阻害薬副作用対策チームは医師9人(腫瘍内科2人、皮膚科1人、呼吸器内科1人、消化器・肝臓内科2人、眼科1人、代謝・内分泌内科1人、リウマチ・膠原病内科1人)、薬剤師2人、看護師2人で構成されています。

チームの活動は、1.院内での免疫チェックポイント阻害薬投与前の患者さんに対するチェックリストの運用・改訂、2.投与中の患者さんに副作用が起こった時の他科との円滑な連携、3.国内外での最新のエビデンスや安全に関する情報の収集・共有などです。また、夜間来院する患者さんを当直医が診察して、異常が認められる時は随時関連各科の当直医に連絡するようになっています。これらの活動は関連病院でも認識されているといいます。

免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん剤とは異なる、自己免疫性の副作用が時期を問わず出現することが知られています。同病院腫瘍内科の中島貴子氏は、「現在さまざまながんに関して免疫チェックポイント阻害薬の治験が進行中で、今後職種の枠を越えたチームで患者さんにきめ細かいアセスメントを行う必要があります」と強調しています。

看護師ならではの関わり方で患者支援

 国立がん研究センター中央病院看護部では、外来での免疫チェックポイント阻害薬治療に際して、投与開始前に行われる血液検査の時間を利用して看護師が副作用チェックを行っています。看護師の問診の後、医師の診察が行われますが、問診した看護師は診察時に必ず同席します。

「患者さんにとって免疫チェックポイント阻害薬は大きな希望であり、期待を持って治療に望むことが多い。従来の抗がん剤とは異なる、自己免疫性の副作用が時期を問わずに出現するため、診療科や職種の垣根を越えた医療チームによるきめ細かな患者アセスメントが求められます」と、看護部の小貫恵里佳氏は指摘しています。

仕事を持ちながらがん治療を行っている患者さんは32.5万人いるといわれます。免疫チェックポイント阻害薬は副作用をうまく管理できれば就労の継続も可能です。小貫氏は「免疫チェックポイント阻害薬は治療費が高額であり、患者さんの経済的な面に配慮しながら、患者さんの価値観に沿った治療を継続できるような支援が課題となります」としています。

薬剤師の視点で重篤な副作用をチェック

 一方、免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理では外来薬剤師の役割も重要です。近畿大学医学部附属病院薬剤部の藤原季美子氏は、「免疫チェックポイント阻害剤の治療中の患者さんの症状が免疫による副作用かどうかを判定するのは難しいですが、たとえば劇症型の1型糖尿病を起こさないように尿糖やケトン体をチェックしながら副作用の早期発見につなげることが重要です」と指摘しています。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用の予防対策は現時点では不明であり、早期発見、早期治療で副作用の状況確認を徹底していく考えを示しました。免疫チェックポイント阻害薬の副作用は投与初期に見られるものが多いといわれますが、遅延することもあり、投与後終了後は十分注意する必要があるとしています。

藤原氏は、「副作用発現率は従来の抗がん剤と比べて低いとはいえ、外来化学療法室の薬剤師は重篤な副作用の発現を常に念頭に置く必要があります。今後、免疫チェックポイント阻害薬の適応がん種が増えれば、多くの診療科で使用されることが予想されます。さまざまな背景を持った患者さんに使われる可能性があり、よりチーム医療の取り組みが重要になります」と締めくくりました。

副作用の早期発見が肝要

 国立がん研究センター中央病院先端医療科の北野滋久氏は腫瘍内科医の立場から、「免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象の発生頻度はそれほど高くありませんが、いつどこでどのような副作用が生じるかを予測するのは困難です」と指摘しています。

2014年7月に根治切除不能なメラノーマに対して承認されたニボルマブの市販後の調査結果から、副作用は4週間~8週間で治まるものが多いことがわかっています。免疫関連有害事象の多くは治療中に発生しますが、少数例では治療終了から数週後、数カ月後、時には年単位の経過で発症することもあり、定期的な血液検査が重要になるといいます。

北野氏は、「原則的にはグレード()2以上の免疫関連の有害事象が出現した場合は治療を止めて、ステロイドの全身投与を行います。高齢者や、糖尿病などの合併症がある患者さんではステロイドの長期投与が難しいため、慎重に投与し、免疫チェックポイント阻害薬による副作用を早期に発見することが肝要です」とまとめました。

注 有害事象のグレード(有害事象共通用語規準v4.0日本語訳JCOG版による)

  1. グレード1 軽症または症状がない、または軽度の症状がある
  2. グレード2 中等症または最小限/限局的/非侵襲的治療を要する
  3. グレード3 重症または医学的に重大だが、ただちに生命を脅かすものではない
  4. グレード4 生命を脅かす、または緊急処置を要する
  5. グレード5 有害事象による死亡

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。