【特集記事】SBRT、IMRTを使った放射線治療の進歩

公開日:2014年10月01日

より多くの放射線をがんに集中的に照射することができるSBRT(体幹部定位放射線治療)やIMRT(強度変調放射線治療)と呼ばれる放射線治療を選択する患者さんが増えています。
治療が難しいと診断されていた患者さんへのSBRT、IMRTを使った治療のケースや病院の探し方などについて、東京放射線クリニック院長、柏原 賢一先生にお話を伺いました。

目次

放射線治療の進歩(SBRT、IMRTを使った治療)

 放射線治療の分野は、近年めまぐるしい進歩を遂げています。以前よりも病変部に集中的に放射線を照射することが可能になったことにより、副作用を少なくし、より効果的な治療が可能になりました。陽子線治療や重粒子線治療を使った治療が増えていますが、照射できるがんの種類が限られていることもあり、IMRT(強度変調放射線治療)やSBRT(体幹部定位放射線治療)と呼ばれる最先端の技術を用いた放射線治療を選択する方も増えています。

SBRTは、従来の放射線治療と違い3次元的に多方向から放射線を当てる治療法です。がん腫瘍に対してピンポイントに放射線を当てることが可能なため、大きな副作用を心配することなく、通常の放射線治療よりも多くの線量を当てることができ、高い治療効果が期待できます。主な適応疾患は肺がん、肝がん、脊椎および傍脊椎領域です。

IMRTは、様々な方向から放射線を照射する時に、線量に強弱をつける治療法です。がんの形が複雑な場合や、がんの近くに正常組織が隣接している場合に、正常組織に当たる放射線の量を最小限に抑えながら、がんに多くの放射線を当てることが可能です。前立腺がん、頭頚部がん、脳腫瘍では、正常組織にも大きなダメージを与えてしまうことから、従来の放射線治療では困難でしたが、IMRTを使うことで、正常細胞へのダメージをより少なくした治療が可能になりました。

 

治療方法が無いと言われても、あきらめないでほしい。
80代男性 胃がん肺転移のケース

 放射線治療でできることが増えてきましたので、いままで治療できなかったケースの患者さんを診る機会が増えてきました。例えば、80代男性の患者さんの場合ですが、既往歴として21年前に胃癌(APF産生)を患って胃を部分切除している方で、今回はその胃がんが肺に転移していました。肺がんは単発性のものだったのですが、7.5cmほどの大きさになっていて、他院では年齢を考えても治療は難しいと判断をされていました。

保険診療で認められている放射線治療では腫瘍の大きさが5cmまでとなっていますので、通常の医療機関では治療が難しいということもありました。当院では肺の腫瘍に対してSBRT を使って60Gy(グレイ)の放射線治療を行いました。

CTスキャンにて確認をしたところ、腫瘍は縮小していて、腫瘍マーカーであるAFPの数値も3ヵ月後には正常化しました。7.5cmにもなる大きな腫瘍になると、副作用として肺炎が起こる場合もあるのですが、今のところ副作用はありません。通常の生活にお戻りになられています。治療が終わってからまだ半年なので今後の長期的な観察が必要ですが、今までではできなかった治療と言えるでしょう。

治療時間に関して言うと、従来の放射線治療であれば、5週間~6週間かかっていたのですが、SBRTを使ったことにより、2週間で全ての照射が済みました。高齢ということもありますので、体力的にも短期間の治療が大切です。従来の半分以下の期間で終わったことは患者さんにとって大きなメリットになったと思います。

AFPの推移

胃がん肺転移 before_after
左肺上葉に7.5cmの転移あり、放射線治療後5ヶ月にて5.8cmに縮小。周囲にわずかの放射線肺炎と胸水が見られるも無症状。新たな転移も認めていない。

 

柏原先生

 

50代女性 乳がんで手術を希望されなかったケース

 もう1名の方は50代女性なのですが、2008年に人間ドックで乳腺腫瘍が疑われて、生検にて乳がんと診断されました。この時に手術を勧められたのですが、ご本人は希望されなかったようです。この方はお母さんが同じ乳がんを患っていました。

お母さんは手術後に再発があり、期待通りの治療効果を得られなかったようです。そのことから、ご本人は手術を希望されなかったのだと思います。3年間のホルモン療法を行ったあとは放置されていました。昨年2013年に当院を受診した時にはすでに腫瘍が大きくなって7cmくらいにまでなってしまいました。

標準的治療で治療方針を固めるとすれば、乳房の腫瘍摘出と腋窩(えきか)リンパ節郭清を行うことになると思います。放射線治療はその後の選択肢になりますね。念押しではないけど、そこからご説明をしました。標準的な治療法をご理解して頂いた上で、ご本人が最終的に何を希望されるのかということです。

現在でも手術をしたくないという希望を強くお持ちでした。このようなケースになると、治療を断る病院もあるようですね。この方は、最終的には当院にてコータック(KORTUC)治療と言われる、増感剤を使った放射線治療を行うことになりました。

コータック(KORTUC)治療 とは、増感剤である過酸化水素を局所に注射をして放射線の効き目を高くする治療法です。高知大学で医師主導の臨床試験が行われています。150症例くらい行われていて、問題もないと報告がありましたので、行う施設が増えてきました。

過酸化水素水の副作用ですが、注射を打ったときに、過酸化水素水が、がん細胞や組織と反応すると酸素が発生すると言われています。それが血管の中に入ると酸素塞栓が起こる可能性があると言われているのですが、実際には起きていません。臨床上問題になることはほとんどないと思います。投与量は0.5ccから、最大でも1ccです。全量入ったとしても重篤なことにはならないでしょう。当院でも60症例くらい経験していますが、トラブルはありません。

他の副作用としては、針を刺すときに痛いのと、薬が入ったときの炎症反応で痛みを感じるといった程度でしょうか。コータック治療は保険診療でカバーできないので、当院では自費診療として、患者さんとの同意のもとに行っています。高知大学は医師主導の臨床試験を大学の倫理委員会を通して行っているようです。

この女性は、2013年の春頃から治療を開始して、切線照射と腫瘍への追加で51.56Gy(グレイ)の照射を行いました。治療から約1年と3ヵ月経過した後に、CT、MRIで検査をしましたが、腫瘍は認められず、現在はホルモン療法のみを継続しています。ご本人から治療後にお気持ちを寄稿して頂きましたので、ご紹介したいと思います。

私は2008年の人間ドッグにて乳がんが発覚し、治療法に関しては自分の納得のいく方法と信頼できる先生にと思い、セカンドオピニオンという形で日本全国の乳癌の名医、10人以上に会いにいきました。
母を乳がんの再発で亡くしていることもあり、どうしても手術をするのには抵抗がありましたので、ホルモン剤の投与だけで様子を見ていました。
2012年の秋頃から、環境の変化や心身のストレスなどからか、痛みが出始め自分で触っても分かるくらいのスピードで癌がどんどん大きくなってきました。10cmくらい大きくなっていて痛みもあるがんが、本当に消えるのだろうか?当初は不安な気持ちと痛みの中で、神にもすがるような気持ちでした。
16回の放射線治療の中に、5回のコータック治療が入ります。痛みに弱い私は、いつも緊張の中で治療に向かいますが、通常の放射線治療はあっというまに終わってしまいストレスは全くありませんでした。
コータック治療は、麻酔をして針を刺すのですが、患部にさすときに痛みが生じ、治療のたびに極度な緊張が押し寄せ、5回の治療は私にとってとてもストレスでした。
そんな中、治療中もいつもおだやかな先生のお人柄に助けられ、前向きに治療を受けられました。

 

右乳がん

手術をしたくないという希望をお持ちの中で、病院選びには苦慮されたのだと思います。最初お会いした時は落ち込んでいらっしゃいました。今とはぜんぜん違う。いまは治療も上手くいき、幸いなことに転移もないので、精神的にも元気を取り戻したように感じます。

 

SBRTやIMRTを行っている病院を上手に探す

 欧米よりも日本で放射線治療の割合が少ないと言われていますが、これは放射線治療に対応できる医療機関が少ないことが原因だと思います。放射線治療もチームで行うことが大切です。医療機器がより高度になっていますので、機器の設定やメンテナンスを行う医学物理士さんの役割が非常に大きくなっていますし、放射線治療のことをよく理解している看護師さんも必要です。

医師だけでは全てを見ることはできませんので、チームで患者さんに対応することが重要なのです。日本ではまだまだ放射線治療のチームを組めている所が少ないのだと思います。放射線治療をあまり得意でない病院だった場合、遠隔転移があったら、抗がん剤のみの治療というのが一般的な判断になると思います。部分的に放射線治療を行い、抗がん剤と併用するといった治療法をなかなか提示してくれないと思います。

どのように病院を選択すればよいのかは難しい問題ですが、病院のホームページには、SBRTやIMRTを行っているかの掲載があると思います。また、医学物理士さんの存在を掲示していたり、チームで診ているところ、症例数などの掲載があればよくご覧になって、ある程度の経験があるところを探すことが重要だと思います。

ポイントまとめ

  • 放射線治療の進歩によってSBRT(体幹部定位放射線治療)やIMRT(強度変調放射線治療)では、病変部に集中的に放射線を照射することが可能になってきた。
  • SBRTは、3次元的に多方向から放射線を当てる治療法。がん腫瘍に対してピンポイントに放射線を当てることが可能なため、副作用を抑えながら、多くの線量を当てることができる。
  • IMRTは、様々な方向から放射線を照射する時に、線量に強弱をつける治療法。がんの形が複雑な場合や、がんの近くに正常組織が隣接している場合に、正常組織に当たる放射線の量を抑えながら、がんに多くの線量を当てることが可能。
  • SBRTは、2週間で全ての照射が済む場合があり、体力的にも治療が難しい高齢者の患者さんにもメリットがある。
  • 乳がんでは、乳房切除の手術をしたくないという患者さんの選択肢として、コータック(KORTUC)治療と言われる増感剤を使った放射線治療により、切らずに治療を行うこともできる。
  • 治療する病院を探す際は、病院のホームページに、SBRTやIMRTを行っているか、症例数はどれくらいかなどの記載してある情報を参考に、医学物理士の存在やチームで診ているかなどと合わせて、ある程度の経験があるところを探すことが重要。

取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一先生

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生


一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事


主な資格など
医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医

放射線治療の基礎知識  SBRTとSRT(定位放射線治療)の違いとは

SBRTもSRTも同じ定位放射線治療になりますが、SBRTは、脳腫瘍など頭部の病変で開発された定位放射線治療(SRT)を体幹部のがんにも応用した治療法です。2004年に保険適用になりました。
SBRTの主な適応疾患は肺がん、肝がん、脊椎および傍脊椎領域です。特に早期の肺がんでは、良好な治療効果が期待できます。
定位放射線治療は3次元的に多方向から放射線を当てる治療で、放射線を腫瘍にピンポイントで当てることが可能です。そのことにより周囲の正常組織に対する影響を抑えることが出来るため、多くの線量を腫瘍に照射できます。治療する部位や体にあった固定器具を使用することで狙いがより正確になります。

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