2018年10月27日(土)14:00~ フクラシア八重洲(東京)にて開催 あきらめないがんセミナー

【特集記事】全面禁煙なくして受動喫煙対策なし――「タバコ・ゼロ・ミッション」の実現

最先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、新しいがん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療と言った標準治療の中でも最新の治療法や、免疫療法や漢方など注目の治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

公開日:2018年4月27日
望月 友美子 先生

受動喫煙と肺がんの間に十分な因果関係

たばこの煙には分かっているだけで7000種類、未知のものを加えると十万種類以上の化学物質が含まれています。うち200種類の有害物質、70種類の発がん物質が含まれ、さらにニコチンやアセトアルデヒドには依存性があります。

国内の研究では、がんになった人のうち、男性の30%、女性の5%、また、がんによる死亡のうち、男性の34%、女性の6%はたばこが原因と考えられています。がんを予防するためには、食事や感染予防はもちろんですが、単一で回避可能なたばこの煙を吸わないことが「一丁目一番地」です。

さらに、たばことの因果関係が明らかな主要疾患は、心筋梗塞や脳卒中、肺気腫(COPD)、糖尿病、歯周病など多々あることから、禁煙によりこれらの疾患を予防できるので、介入政策として「ベストバイ」といわれます。

厚生労働省の「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(2016年)によると、日本人の研究のみから喫煙とがんの因果関係を、

  • レベル1: 因果関係を推定するのに十分
  • レベル2: 因果関係を示唆
  • レベル3: 因果関係を推定するのに不十分
  • レベル4: 因果関係はない

の4段階で科学的に判定し、次のような結果が得られました。

喫煙とがん患者全体の生命予後の悪化 レベル2
喫煙と肺がん患者の生命予後の悪化 レベル1
がん患者の喫煙と二次がん罹患との関連 レベル1
喫煙とがん再発リスクの増大 レベル2
喫煙とがん治療効果の低下との関連 レベル2
受動喫煙と肺がん レベル1

とりわけ、喫煙ががんの治療効果を妨げることをご存知でしょうか。がんは栄養血管を新たに作って大きくなっていきますが、抗がん剤はがんの血管新生を阻害します。しかし、たばこを吸うと、ニコチンが血管新生を促すように働きかけます。また、喫煙によって生体に備わっている創傷治癒力が低下するため、手術後の経過に悪影響が出ます。

すでに述べたように喫煙を続けることによってたばこ関連がん、二次がんを発生させるリスクが高まります。たばこに元々含まれている発がん物質だけでなく、喫煙によって体内に取り込まれたニコチンは肝臓で薬物代謝酵素によって最強の発がん物質に変化し、受動喫煙でも同じことが起きるからです。

このように「がんの予防は禁煙から、がんの治療も禁煙から」で、患者さん、ご家族、医療者の方々にはぜひ理解していただき、ご本人が禁煙を実行するのみならず、それを支援していただきたいと思います。

世界の後塵を拝する日本の禁煙政策

私はこれまでWHOたばこ規制部長、国立がん研究センターたばこ政策支援部長を経て、現在当協会で禁煙推進・対がん事業開発に携わっています。長年にわたって禁煙の推進、受動喫煙対策に関わってきた経験から、国内、海外の動きを振り返りながら、禁煙後進国日本の現状を踏まえ、将来を展望してみましょう。

すでに報道されているように、日本政府は3月9日、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を閣議決定し、国民が利用する公共の場での禁煙を初めて罰則付きで義務づけることが了解されました。

今後の国会での議論を経て法律制定に至るわけですが、これまで受動喫煙防止の努力義務しかなかった飲食店も原則屋内禁煙とすることになる一方で、小規模の既存飲食店には喫煙を認める例外規定も設けられました。厚労省の資料では客席面積100㎡未満は免除され、実に86%の店が除外となるので、これでは抜け穴どころか、穴だらけです。

規制は、建物外も含めた敷地内禁煙(学校、病院、行政機関など)と、建物内だけの原則屋内禁煙(事務所、飲食店、ホテルの客室以外、老人福祉施設、運動施設など)で、既存の小規模飲食店は「喫煙」、「分煙」の標識を掲示すれば、店内での喫煙が可能となりました。

これまで努力義務であろうと民間や行政指導などにより「全面禁煙」の方向に向かっていた機運に水が差され、これまでの議論から大きく後退する結果となり、利用者のみならず従業員の健康を犠牲にするという、国際水準からみれば極めて異常な事態といわざるを得ません。手段とするべき法律が目的化してしまったことが原因といえます。

そんな残念な気持ちをもって、3月中旬に南アフリカのケープタウンで開かれた「第17回タバコか健康か世界会議」に参加しました。これは1967年にニューヨークで始まり、3、4年に一度開かれている、世界最大規模のたばこ対策の国際会議です。日本の禁煙・受動喫煙対策は世界の主要先進国の中では遅れていますが、完全禁煙がデフォルトになっている国際潮流の中、今回、その差がさらに大きく開き、3周回遅れが4周回遅れとなってしまったことを痛感しました。

そうしたなか、「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が4月1日から施行されました。

喫煙者は家庭内でも、家庭外でも、車の中でも、子どもがいる場所ではたばこを吸わないように努めることを定められました。行政が都民の私的空間にまで踏み込んで、弱い立場の人たちを優先して守るために禁煙を打ち出した条例は画期的なことで、人々の意識を変え議論を始めるきっかけとなったといえます。

さらに、東京都は6月の都議会に公共の場所の受動喫煙を防止する条例を提出することが発表されましたが、国の法案に比べればはるかに厳しく、従業員のいる飲食店では原則禁煙(喫煙所は認める)方向で議論が進んでいます。

面積ではなく、人に着目した規制が特徴ですが、今後どれだけの押し戻しがあるのか、都民や国民の支持が期待できるのか予断を許せません。東京都医師会などが中心となって、署名活動を全国・全世界に向けて始めたのは、世論喚起とともに、民意を可視化するためのものです(2018年5月号のトピックス記事参照)。

日本はWHOの「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の締結国です。同条約は、2003年にスイス・ジュネーブで開かれた世界保健総会において全会一致で策定され、04年に日本も批准・署名を行い、05年に発効しました。現在、181の国と地域が締約国となり、条約に基づいた施策を次々と実現しています。

同条約は、喫煙の悪影響から現世代と次世代の健康を守るために、たばこの需要と供給の両側面からさまざまな規定を定めていますが、たばこ製品の主要な生産国・消費国でもある日本も、公共の場所、職場などあらゆる場所でたばこの煙から国民を守る対策を講じて実行する義務を負っているのです。

第8条に規定されている受動喫煙防止は、すべての人を守るための環境整備に位置付けられ、最優先で実現すべき政策として2010年までに法律を作らなければならなかったので、2020年のオリンピック・パラリンピック開催地として、WHOやIOCから求められている禁煙環境は仮に整ったとしても、10年遅れになるわけです。

電子たばこの健康被害

最近の傾向として従来の燃焼式たばこから加熱式たばこや電子たばこに切り替える喫煙者が増えています。加熱式たばこは、たばこの葉を約300~350度で加熱(紙巻きたばこの燃焼温度は600~700度)してエアロゾル(蒸気、ミスト)を発生させて吸引する方式で、精巧に設計されています。

加熱によってプロピレングリコールなどの基材がエアロゾルを発生し、特殊加工された原料から抽出されたニコチンなどの成分がエアロゾルに乗って体内に運ばれ、肺の深部に送り込まれます。エアロゾルにはニコチンのほかに、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド、ニトロソアミンなどの発がん物質が含まれています。

エアロゾルを蒸気と言い換えると、無害な水蒸気を連想されるかもしれませんが、このように加熱式たばこの蒸気には有害成分が含まれており、煙もエアロゾルですから、言葉遊びにすぎません。また、喫煙者から排出されるエアロゾルは2m以上の距離に届くことが確認されています。

加熱式たばこは加熱される先端がホルダー(パイプ)の中に潜っているので、いわゆる副流煙は発生しませんが、受動喫煙に相当する二次曝露による環境汚染が確認されています。これにより使用者の周りにいる非喫煙者が焼けつくような胸の痛みを訴えたり、急性ニコチン中毒のような吐き気や頭痛が生じたりすることが報告されています。

咳込みながら紙巻きたばこを吸っている喫煙者をよく見かけますが、それに比べると加熱式たばこはマシだという体感を報告する使用者もいます。紙巻きたばこから加熱式たばこに変えて、咳が出なくなった体験をもとに、メーカーやメディアが仄めかしているように、健康にいいと誤解する人は少なくありません。

しかし、咳は異物に対する生体の防御反応で、異物に対して反射的に気管支が収縮して外界からの侵入を防ぐとともに、気管支内に入ったとしても高速で吐き出すことにより異物が排除されるのです。加熱式たばこのエアロゾルはこの防御反応が起きる間もなく、肺の中に侵入してくるわけですから、周りにいる人も気づかないうちに健康が損なわれている可能性があります。加熱式たばこでアレルギー性肺炎の1つ、急性好酸球性肺炎を発症した例が報告されています。

国立がん研究センター・がん対策情報センターは、電子タバコの禁煙の有用性を確認する目的で、過去5年間に禁煙に取り組んだ約800人を対象に行った調査結果を昨年12月に報告しました。それによると、電子タバコによる禁煙の有効性は低く、禁煙に成功する人が約3分の1少なくなることが示されました。同センターは「わが国では電子タバコによる禁煙の有効性を否定する結果」としています。

一方、日本呼吸器学会は、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコ喫煙者が増加している現状を踏まえ、健康増進、禁煙推進の観点から、

  • 1. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は健康に悪影響がもたらされる可能性がある
  • 2. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動吸引による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない

との見解を表明しています。

受動喫煙の犠牲者は家庭と職場から

世界では、受動喫煙が原因で年間60万人が死亡していると推計されています。日本では受動喫煙による年間死亡者数は約15,000人と推計され、このうち女性が約10,000人と男性の2倍以上を占めています。

原因疾患は男女とも脳卒中が最も多く5割以上を占め、次いで多いのは虚血性心疾患(女性28%、男性35%)で、肺がん(18%、14%)がそれに続きます。

受動喫煙による死亡者の半数は家庭からで、多くは女性が犠牲になっています。残りの半数は職場です。たとえば飲食店は、そこで働く従業員にとっては職場で、たばこを吸っている客の前では我慢するしかないのが現実です。

しかし、たばこの煙の有害物質にさらされるのは喫煙者も非喫煙者も、女性も男性も、大人も子どもも、従業員も事業主も同じで、受動喫煙と能動喫煙を区別する意味もありません。ユニバーサルプロテクションが必要なのです。

国は現在、「中小企業事業主による受動喫煙防止のための施設設備の整備に対し助成することにより、事業場における受動喫煙防止対策を推進する」ことを目的に「受動喫煙防止対策助成金」制度を実施し、都道府県で申請を受け付けています。

しかし、助成制度自体が全面禁煙を妨げることになり、免責規定で例外を設けることも、最新の設備を導入して分煙することもナンセンスといわざるを得ません。健康増進法改正と並行して、がん対策予算の中に受動喫煙防止対策予算として55億円が計上されていることは、“がん生成室”を国が助成するということにほかならず、目指すべきは全面禁煙以外にありません。

受動喫煙の問題にもう1つ視点を加え、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(日本国憲法第25条)との整合性はとれているのか、さらに国連人権宣言で保証されている人権の側面も守られるべきだと思います。

5月31日は「世界禁煙デー」です。国民の命と次の世代がたばこから完全に守られるよう、「タバコ・ゼロ・ミッション」を掲げて、当協会では今後も活動を推進していきたいと考えています。