【特集記事】先生のご家族や知り合いの方ががんになったらどうしますか? V

公開日:2013年10月01日

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肺がん診断は胸部CTである程度は悪性度の評価ができます。

 肺がんの発見に関しては、昔から胸部写真がまず行う検査でしたが、近年になり胸部CT検査が早期発見の第一選択として勧められています。私たちのがんセンターは近隣の施設と綿密な病診連携をおこなっていますので、地域のクリニックで気になったケースをご紹介いただき、そのケースに必要となる精密な検査を行い、早期に肺がんを発見するということをこの30年やっています。

 胸部CTと胸部写真を比較したときの肺がんの発見率は、人口10万人に何人見つかるかという10万人比でみてみると、胸部写真が50人~60人発見できるとされているのに対して、胸部CTは200人~400人はみつかるとされています。これは4倍以上の発見率ですね。

 CTはコストもそれほど高くなく、1万円前後で検査が受けられますので、広く受け入れられると思っています。また、CTは身体を1㎜という非常に薄くスライスした状態で再構成し、3次元的に肺から足の先まで見ることもできます。
これらにより立体的な画像診断の応用が可能となり、手術の適用の有無、見つかった肺がんの悪性度の程度も判別できるようになっており、その患者さんの治療手段の選択:放射線治療?、手術療法?、抗がん剤治療?などを患者さんに自己選択してもらっています。

 次に第一肺がんの治療受けた後にまた肺がんが出てきた場合ですが、第一の肺がんが「再発」しているのか?、新たに二つ目の肺がんが発生「第2肺がん」したのか?で、今本的に治療の考え方が変わってきますね。
この「再発」か「第2肺がん」かは、CTを使った精密な形態診断に加えて、癌細胞が持つがん遺伝子検査で分かることが最近の研究で判明しています。

 したがって、我々のようながんセンターでは、基本は手術でとれるものはとっていこうという考え方が基本にあるのですが、「再発」であれば、他にも転移している可能性もでてきますので、患者さんの年齢や体力、生き方にかかわるところをしっかりとヒアリングして、抗がん剤治療や放射線治療を選択します。CT診断+遺伝子診断が今後の肺がん治療の決め手ですね。

PETや遺伝子診断も進歩しています。

 診断という領域での近年の進歩でいえば、PETと上述した遺伝子検査でしょう。PET検査とは、検査薬を事前に患者さんに投与して、悪性のがん細胞だけに目印をつけておき、その目印を撮影する専用装置によってがんを見つけ出します。
いままでよりも早期に発見できることが期待されていますが、がんの存在する場所によっては発見が難しかったり、発見するのに相性の悪いがんが存在します。
また費用が高額なのこと+被ばく量が大きいことも一般的に使われていない理由だと思います。ここ数年でPETとCTの画像を同時に撮影できるPET-CT検査といった診断機器も登場しています。

 がんの遺伝子検査は今や肺がん治療には欠かせないものになっています。この検査によって事前にがん細胞の種類を特定して、効果のあるお薬を見極めてから投与するような方法もあります。
分子標的治療薬のイレッサ(ゲフィチニブ)やタルセバ(エルロチニブ)といったお薬ですね。イレッサの適応は「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」となっていますが、EGFR遺伝子に変異があるかを事前に必ず検査します。
タルセバの方もイレッサと同様な適応であり、再発や転移のあるケースはもちろん、初発の進行肺がんの第一選択薬にもなってきました。

 また、昨年からイレッサやタルセバとは違うALK融合遺伝子に対する抗体であるザーコリ(クリゾチニブ)も臨床で使えるようになりました。これも事前の遺伝子検査によって処方できるかが分かります。
ザーコリの適応は「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」となっていて、ALK融合遺伝子が陽性だった場合に処方ができることになっています。
ALK融合遺伝子はいくつかの検査手法があり、一つの検査方法だけでは、判断できないこともあるとされ、今後より正確な診断手法の開発が現在検討されています。

進歩する肺がんの手術(内視鏡補助下での手術)

 肺がんの手術は内視鏡補助下でできるようになり、患者さんへの負担は劇的に減りました。数年前の開胸手術では体力的に難しかった高齢の方でも手術ができて、現在は90歳の方でも手術をおこなったりします。

 さきほどの検査の所でもお話しましたが、CTや遺伝子検査を組み合わせても、十分に「再発」か「第2肺がん」かわからない場合もあり、手術の負担が減ったこともあって、手術でとれるものはとってしまうこともあります。場合によっては、定位放射線や粒子線治療などの新しい放射線治療選択することもあります。

 肺がんの手術で難しいのは、QOLといった普段の生活に与える影響です。胃がんや乳がん、子宮がんであれば臓器を全部とってしまう場合もありますが、肺の場合は右肺を全部切除することは日常生活に大きく影響を及ぼします。術後の生活のことも考えて治療選択を行うことが大切ですね。患者さんとのコミュニケーションをしっかりとることを常に考えながら治療をおこなっています。

私が考える患者さんとのコミュニケーション

 患者さんの納得のいく医療とは何か、私は患者さんの考え方はそれぞれで、納得の仕方もそれぞれだと思っています。
たとえば一般的には30代や40代のバリバリ働いている人であれば、目的は仕事の現場に戻って、いままで通りのように働くことになると思いますし、60代後半~70代以上の方になれば、目的は社会復帰というよりは、家に帰って生活を続けるといったことを目的とする方が多いようです。

 しかしながらサポートする医師も患者さんの目的によってやり方を変えていなければならないと思っています。当院の患者さんは60歳前後の人が多いのですが、非常に元気です。仕事を持っている方も多くいらっしゃいますので、社会復帰を目的とされている方が多いですね。

 社会復帰を目的とすると、抗がん剤など治療も入院ではなくて、外来で行えるようなものにしますし、放射線治療を行う場合でも外来通院でのプランにします。仮に入院する治療があったとしても、できるだけ短い期間で退院できるようにしています。
患者さんの意志を反映して、サポートできる最善のものを提供していくといった感じですね。

 さきほど話にもでましたが、分子標的治療薬も飲み薬が多いですから、入院の必要はほとんどないです。初診の時点で、できるだけ情報を伝えて、患者さんが納得いく選択ができるようにサポートしています。また、当院のようながんセンターであれば、標準治療になる前のお薬を試していただく治験も色々と動いています。そういった治療をお話する場合もでてくるでしょう。

先生のご家族や知人が“がん”になったらどうしますか?

 私の家族や知り合いががんになった場合ですが、医師も人間ですから、情が入ってしまうと、主治医として診るのは正直つらいです。バッドニュースを伝えるという行為は、聞く患者さんもつらいですが、医師にとっても心苦しいものなのです。それが知り合いになると推測して頂けると思います。

 ただ治療方針などについてはしっかりと状況をみておき、十分に説明したいですし、当院であれば意見も言いやすいですから、私だったら当院での治療を勧めるでしょう。私の専門は肺がんですが、肺がん以外であればそれぞれの専門担当の先生に依頼をしますし、肺がんだった場合は私の部下に担当を任せると思います。

 当院の看護師でご両親が肺がんになり、私を訪ねてきたことがあります。職場でも顔を合わせますので、病状の進行などを伝えるのは正直つらかったです。
ただ、私を信頼して来て頂いたからには、しっかりと治療をおこなうことで期待に応えていくしかありません。数年前までは、進行肺がんにかかったら予後1年と言われていた時代がありました。しかし今は、手術・化学療法・放射線などの総合的な治療によって、2年~3年以上にも生存期間が伸びています。あきらめない治療を続けることが大切です。

取材にご協力いただいたドクター

山田 耕三 先生

神奈川県立がんセンター
医療技術部長 兼 呼吸器内科部長

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